ぼんやりとした凄み
★★★★★
まずは廃盤になっていた本作の再発が喜ばしく、画像も作品の古さを考えますとDVDとしては最高です。
私は本来趣味が下品で、芸術的な映画は好みではないのですが、ドライヤーの映画は観て直ぐわかる尋常ではない凄みに魅入られています。 私には欠けているはずの感受性か、無い筈の器官が刺激されて蠢く気が致します。
本作もストーリー上はこれ以上私が興味を持てないテーマも無い程の地味な内容で、主演のヒロイン、ゲアトルーズ( 旧邦題ではガートルード)の外観にも殆ど魅力を感じないのですが、何かが起こっている感じがして、画面から目が離せません。本編中幾度かゲアトルーズが歌手である設定から愛人のピアノの伴奏で歌うシーンが有るのですが、無調に近いこの曲のなんとも言えない美しさは表現の仕様がありません。
充実した解説書によると(ライターはデンマークでドライヤー映画の講義を聴講までしている)、本作は次に計画されていたイエス・キリストの生涯を描く作品の習作だったらしく、ドライヤーの死によって立ち消えたと言う事です。 もし実現していたら、特撮もキリスト役の俳優の手も借りずにキリストの姿を顕在させる奇蹟が体現出来たのではとまで勘ぐりたくなります。
非常に地味な様でいて我々の立ち居地までゆるがす作品です。数回ご覧になる事をお薦め致します。