文化史研究の名著
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本書はこれまでの政治を中心とした歴史記述ではなく、民衆をテーマとした画期的な文化史研究の先駆的著作である。<歴史のフロンティア>シリーズの一冊として出版された1993年において、歴史研究のまさに先端をいく著者の歴史への切り口は、今になってなお斬新である。テーマの設定の独創性、史料の精緻な分析、さらには史料レヴェルから近代歴史学の発展、当時の最新の研究事情までがあますことなく書かれていることには舌を巻く。
多くの文献史料、絵画等の視角史料、特に諷刺画家ホガースの作品分析を通して「シャリヴァリ」と呼ばれた「制裁の儀礼」を分析していく過程において、その分析の鋭さ、精緻さには脱帽する。またあとがきからもわかるように、著者が職工の息子として生まれ、東大紛争を経験し、実際にマルクス主義に多いに影響を受けた世代の歴史家であることから生じる、熱い歴史への思いがこの著作には満ちている。およそ「〜史」と名のつくものに興味のある者であれば、これは必読の書である。