“入門”し“実践”する上での良い助け
★★★★★
『書誌学』と聞いて、「ナニをやる学問なんだろう」というのが当初いだいた率直な思いでした。連想されるのは「たしか林望先生はショシガク者だったよな」という程度でした。ですから、『書誌学』についてはまったく無知といっていい状態でした。「入門」と付いていたので、当該書籍を手にいたしました。
『はじめにー書誌学の目的と対象』の冒頭:《書誌学とは耳慣れないことばでしょう。書物そのものを対象とする学問として、その目的をしっかりと認識した上で実践に取りかかって下さい。》とあります。それから、書籍には、モノとしての側面と内容(テクスト:情報)としての側面とがあり、書誌学とはもっぱらモノとしての書物の成立と伝来に着目していくものであることが示されています。「です・ます」調の文章で難解な印象はありません。
『第一部:古典籍を見る(実践編)』には、“実践編”とあるとおり、すぐさま「調査用具と参考書」が取り上げられ、書誌学とは、「具体的なモノに即して考える」「実践」する学問であることを肝に銘じられます。
専門用語が数多く出てまいりますが、理解を助ける多くの図版もあり、それが身に付くかどうかは「慣れ」の問題であるように思います。「付録 書誌調査の流れ/和暦西暦年表」もあり、参考文献が示され、索引も用意され、入門書としてたいへん行き届いた内容を備えているように思います。また、ソフトカバーで軽量なつくりの当該書籍は調査のために持ち歩く上でも有用であるように思います。お値段も内容からいってたいへんお得なのではないでしょうか。
モノとしての本を追う
★★★★☆
職人的勘と経験がものを言う「書誌学」という世界は、素人にはとっつきにくい領域である。
古典籍を所蔵する図書館(やその部署)というのは基本的に閉鎖的である。彼らは本の保存が第一の仕事であって、公開は二の次である場合も少なくない。どこか大学の専任教員ならまだしも、学部生や院生などはたいてい指導教員の紹介状が必要になる。
最近、「書誌学」の入門をうたった本書が登場した。著者が鶴見大学で行った受業がもとになっているという。この手の本は種類が少ないので、とても有り難いことである(本来は「口伝」や「実地訓練」など、体で覚えるのが当たり前の世界だったからかもしれない)。
本書の内容は、基礎的なことから一部ややつっこんだところまで(「埋め木」による改版の指摘など)丁寧に解説されている。私には、冒頭の表紙の色と文様についての紹介が非常に参考になった。
あくまでも、解説は近世期の版本がメインである。中世以前の写本についても触れられているが、その辺りの詳しい解説は別の本にあたる必要があるかもしれない。