海上護衛戦 (角川文庫)
価格: ¥864
いわゆる戦争について書かれた書物の中で、「護衛」に関したものは、特に日本では少ないであろう。太平洋戦争当時においても、上陸作戦との関連においてはともかく、通商保護に関してはほとんど関心を持たれていなかったらしい。しかし、資源小国の日本にとって、太平洋戦争の開戦の理由の大きな部分は南方の資源の確保にあったはずであり、その輸送路が断たれれば戦争継続はおろか国民生活にも重大な支障となることは明らかであった。そしてそれは現実のものとなったのである。
著者は、昭和18年から終戦まで海軍で海上護衛総司令部参謀を務めていた。もっとも、総司令部といってもその戦力はお粗末なものであり、軍備の劣る老朽艦や小型艦ばかりが配備されていたという。遠洋航路の大型商船にとっては速度が遅い護衛船ではかえって足手まといになるケースもあった。また、護衛作戦についても満足な知識を持つものは少なく、素人の集まりといってよかった。
本書からは、軍上層部の護衛への無理解に対する著者の歯噛みが随所に伝わってくる。護衛は戦果を挙げることがほとんどなく、味方が被害を受ければ非難される損な役回りだ。そして、その重要性は極めて大きいのにほとんど評価されることはない。
現在の日本は、戦時中以上に海外に資源を依存している。すなわち、シーレーンの重要性は当時よりはるかに増しているのだ。この問題について考えるとき、戦時における貴重な体験記として、本書の持つ役割は決して小さくないだろう。(杉本治人)