チャイナ・ウオッチャー 宮崎正弘先生の集大成
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本書はイデオロギー的に見た中国共産党の是非をひたすら論じるのではなく、近年の若年層の動向など社会的な側面から押さえているなど、様々な切り口で中国の現状を分析している。本書で詳細に記述されているが、あらゆる段階で中国はエリア・層を変えまとまっていない。タイトルにある通り、中国の分裂は実現も間近と思わせる内容となっている。
取材の多さとあふれ出る情報量に圧倒される。
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仮定の話だが、中華人民共和国が7つ、いやそれ以上に分裂する可能性があると警告する本だ。ただし、内容のほとんどは彼の地ほぼ全てを精力的に飛び回って取材した内容や、過去の経緯を説明する形式である。日に1,2通の人気メルマガを発行する著者である。文体は非常に熟れて読みやすい。
ソ連も15個ぐらいに分裂した。ユーゴスラビアもチェコスロバキアも分裂した。あり得ないと思うことまで想像するのが危機管理の基本でもある。
中華帝国のほぼ全土の気質、過去からの変貌、資源獲得、軍拡の実体などを、次々と手品の様に読者に見せてくれる筆の冴えは圧巻である。政治的な世代間、派閥の確執、現代っ子の生き様、北京・上海・四川・広東・チベット・ウィグル・旧満州・台湾の事情と現地の様子、果ては国境を越えたロシア側にも足を運び、ロシアとの微妙な関係を描き出す。
今のチャイナはこれ一冊で全部分かると言っても過言ではない。
品川の寿司屋で中国人アルバイトに質問した。中国好き?
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著者の興味は当初国内にあった。三島の側近として活動をしていた時期もあった。その後は日本の文化復興運動である浪漫運動の広報担当として、左翼啓蒙化した国内の世論に挑戦した。
それらの運動は自民党青嵐会への支援で絶頂を極めるが、中川一郎代議士の死とともに潰えるのであった。
さて本書であるが、希代の中国ウオッチャーである著者が、その足で歩いた匂いと、政府高官からカラオケボックスの子女までの豊富なインタビューと、英語、広東語、北京語に精通し、その情報網から入手した豊富で正確なデータをもとに、現在の中国を分析し、その近未来を大胆に予想している。まずエピローグでソ連の崩壊を1976年に予測したフランスの人口学者エマニュエル・トッドを引用し、当時トッド博士の説は一笑にふせられたが、13年後予想通りになると説く。
続いてロシアの学者アイゴア・バナーリンのアメリカ6分裂論を提示している。ーちなみにその論とはアトランティックアメリカ、中西部アメリカ共和国、テキサス共和国、カルフォルニア共和国、ハワイ、アラスカの6ヶ国であるー
そして著者の予想は…。
以下はぜひ本書を通読していただきたいが、結論だけ明かせば、著者のメールマガジン読者であれば容易に予想はつくであろうが、まず経済的に北京天津経済圏、上海経済圏、福建経済圏(台湾を含むが後述で台湾の独立にふれている)、広東経済圏、四川経済圏と地域的に東北三省、新疆ウイグル、チベット、モンゴルとなる。
これらの根拠を各章で細かく分析していくが、その慧眼にはうなるばかりである。中国については諸氏が多くの分析をし、書籍を出版しているが、著者と黄文雄氏の論説は第一級であろう。
特に著者の地政学的視点とその足で現地を訪問し、その土地の匂いと空気、そして庶民の動向を永年定点でウオッチしている感覚は、政治経済にしかその視点をおかない他の論説にはない機微がある。
著者は最後にこう語る。
これまでの固定概念的な地方軍閥、地域対立、王朝の腐敗、衰退という文脈からの分裂に至るというシナリオは遠のき、むしろ現代中国に広がった新しい空間、すなわちネットにおける反政府言論というゲリラ戦争、イスラムの思想的連帯という見えない武装戦争、利権争いの集大成としての個別経済ブロック化、地方ではグローバル化の波に乗った資産の海外逃亡などが次の舞台の開幕を継げるであろう。
と筆を擱いている。
既に分裂しているのかも知れない
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軍事も経済も大国化する中、いろいろな意味で中国には大きな格差が発生している。
地理的な分裂はともかく、ここに挙げられている格差・分化は既に是正しがたいもののようだ。
著者は歴史の半分は分裂していたことも指摘している。
・地域経済ブロック化
・貧富の格差
・利権による官民格差
・国家の求心力の風化
・にセ物文化
・少数民族問題
・ネット社会の到来