ままならぬ運命
★★★★★
『予告された殺人の記録』は著者自身が実際にあった事件をモチーフに町の人間に取材していくかたちで進んでいく小説です。町中の人間に知れ渡り、犯人が誰かもわかっており、当の犯人のやる気も欠けているにもかかわらず、彼は滅多切りにされてしまった。殺人事件が起こるまでとその顛末をドキュメンタリー形式で追います。形式の面白さだけなく、犯人がなぜ犯行におよぶにいったのか、周りの人間の考え方、それらに含められた風刺に気付かされます。物語とジャーナリズムを混合・再生成することで、人生における一つの運命が濃厚に圧縮されています。
『十二の遍歴の物語』はヨーロッパを舞台にした短編集に、ガルシア・マルケスがこれらを書くまでを語った「緒言」とノーベル文学賞受賞講演「ラテンアメリカの孤独」が加えられています。「悦楽のマリア」「毒を盛られた十七人のイギリス人」が好きです。
「悦楽のマリア」は夢のお告げによって知らされた自分の死期のために着々と準備を進めるマリア・ドス・プラゼーレスが、当の死期を迎えたときに何を思ったのか。「悦楽」の意味がよくわかりました、
「毒を盛られた十七人のイギリス人」ではローマの教皇の告解を受けるべくイタリアのナポリにたどり着いたプルデンシア・リネーロ夫人が異国の地で次々と起こる出来事に振り回される話です。確かに一日にこれだけのことが起こったらぐったりしそうです。