1つの冒険はサービス問題
★★★★★
多分この難解な事件が連なるシリーズの中
1つは解けるのではないでしょうか。
それは「姿を消した少女の冒険」です。
これはある時点で犯人推測が容易になるので
サービス問題といっても過言でもないはずです。
そのほかには
人間のひとつの習性を利用して
事件を看破する作品があったり、
事件に意外性のあるものを利用したりと
シナリオ集ながらなかなかの力作ぞろい。
解けないぞ!とお怒りの方も
きっと1つは解けるはずです。
運がよければもうひとつもね。
クイーン中後期の作風の萌芽が窺えるシナリオ集
★★★★★
◆「〈生き残りクラブ〉の冒険」
プロット上の道具立ては〈トンチン年金〉(投資家たちが共同で基金
を設立し、最後に生き残ったメンバーがすべての金を受け取る方式)。
ミステリではお馴染みの視覚的手がかりが用いられてますが、
アメリカの風俗を知らないと厳しいです。
◆「死を招くマーチの冒険」
子ども達に遺産を一切与えないように遺言状を書き換えよう
としていた、大富豪のサミュエル・マーチ氏が殺された。
死に瀕したマーチ氏は、ダイイング・メッセージを遺していたのだが、
それは一見、子ども達全員に当てはまるようなものだった……。
正攻法のダイイング・メッセージものですが、英語の知識が必要。
子どもの名前にも工夫が凝らされています。
◆「死せる案山子の冒険」
胸を刺されて案山子の格好をさせられた男、そして、
雪だるまのなかに隠されていた死体の正体とは?
『災厄の町』を彷彿とさせる家族悲劇。
ノイズに惑わされず、物的手がかりに集中するのが吉。
◆「姿を消した少女の冒険」
悪徳政治家を告発している新聞社社長の娘が誘拐された事件。
結末における衝撃度は、本書のなかで随一ですが、
レッドへリングとプロットが連動していないのが残念。
苦悩する名探偵エラリーの人間性が味わえるクイーンの傑作ラジオドラマ集第2弾です。
★★★★★
20世紀アメリカ・ミステリーの黄金時代に君臨したロジカルな本格ミステリーの神様巨匠クイーンの傑作ラジオドラマ・シナリオ集第2弾です。本書のタイトルを見るとファンの方ならすぐにクイーンを代表する名作「エジプト十字架の謎」を思い出される事でしょう。さすがに今回は首なし死体の趣向ではないのですが、それでも昔読んだ時の懐かしい思いが込み上げて来ます。今回も名探偵クイーンの脇を固めるレギュラー陣は健在で、ニューヨーク市警の父クイーン警視とヴェリー部長刑事は時折掛け合い漫才のようなやり取りをして楽しませてくれますし、秘書のニッキー・ポーター嬢はエラリーにモーションを掛ける回数は減りましたが、とても感情的で賑やかに喜怒哀楽を表に出して活躍しています。ファンの方ならご存知と思いますが、クイーンは初期と中期後期ではガラリと作風が変わり作中探偵のエラリーの性格が感情を持たない完璧な推理機械のようだったのが、謎の解明に苦しんだり間違った解釈をしてしまい挫折して悩んだりする人間らしい姿に変貌します。本書にはこのふたつの時期のエラリーが登場していてそれぞれに味わい深いです。また、お馴染みの「聴取者への挑戦」に正解するのは相当に困難だと思いますが、ぜひ挑戦して下さい。究極の意外な犯人に驚愕させられる『〈生き残りクラブ〉の冒険』、ダイイング・メッセージの醍醐味の『死を招くマーチの冒険』、読み手の先入観を逆手に取る『ダイヤを二倍にする男の冒険』、不気味なオカルト・ミステリーの傑作『黒衣の女の冒険』、ホームレスという社会問題を扱った『忘れられた男たちの冒険』、呪われた一族の悲劇がライツヴィル物を思い出させる『死せる案山子の冒険』、誘拐事件の興奮と残酷さが胸に迫る『姿を消した少女の冒険』と、ラジオという媒体を効果的に活用したクイーンの傑作シナリオ七編で、貴方も犯人当てパズルに挑戦して胸を高鳴らせて下さい。