コツさえつかめば、一気にその世界に入れる傑作
★★★★★
20世紀最高の文学と聞いて試しにこの抄訳版を読んでみました。正直最初は「???」です。何と言うか格調高い文章は和訳でも十分伝わるのですが比喩表現が多く、例えば「わたしは○を見た」というところを「まるで〜が〜の様に、わたしはかつて〜での〜を思い浮かべながら○を〜・・見た」といった文章の連続で何がどうなっているのかがスムーズに理解できません。半年ほど経って改めて読んでみると、突然にまるで最初のマドレーヌの挿話の如く語られている景色が心に浮かぶようになり、それ以降は時間を忘れてその世界に浸りきりでした。最終話で種明かしがあるのですが、これは死を目前にした主人公が人生を振り返る物語なので、具体的な出来事よりもその時感じた「心象」を描き出すのが目的であり、そう判るとむしろその比喩の詩的表現がメインと感じる。つまり、もし自分があと半年の命と宣告されたら、おそらくこの様に人生を振り返るだろう世界を描いているわけで、これほどに美しく、人生の意義を描く小説は他には存在しないと言えるのではないか。