黎明期のアンビエントにして最高傑作
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Mobyと言えば、かつてはジュリアナ系、現在ではオシャレなブレークビーツを作るアーティストして認識が強いと思いますが、彼が時折見せるアンビエント方面へのアプローチはハッとさせられる求心力を持っています。
そんな彼が唯一アンビエント曲のみで構成されたセカンドアルバム「Ambient」をリリースしたのは1993年、まだアンビエントがテクノやハウスと分離されていなかった頃のものでした。
現在聴くと、その時期的な特性により、初期のORBやAphex Twinと同様かなりビートの強いメロディアスなアンビエントと感じますが、ORBやAphex Twinと違うのは全編に漂っている陰鬱さと崇高さでしょう。ある意味で俗っぽさを全く持たない、この世の音楽とは思えない音の世界を構築しています。特に「Myopia」、あまり長い曲ではありませんが、死後の世界へ旅立つ階段を昇っていくような神秘的な響きを持っています。他の曲も捨て曲がなく、統一したコンセプトが貫かれています。
Mobyはこの後リリースしたアルバムでは、アンビエントはアルバムに1曲か2曲程度しか入れなくなりましたが、数年前にリリースした「Hotel」の限定版2枚組において、「Ambiebnt Side」という全編アンビエントのCDを作っており(この出来がまた素晴らしい)、まだアンビエントに対しての情熱を感じられます。或いは、売れる音を作り続けている彼が本心から作りたい音は、既に流行り筋ではないアンビエントなのかもしれません。