消えた68年世代の悲劇−事実と証言
★★★☆☆
一橋大学元教員の加藤哲郎氏はかつての68年世代が、2010年になって日本とヨーロッパでは相反する異なる政治方向を担っていることを指摘して、その世代の「一人として、彼我の違いがうまれた根拠を、深刻に反省しなければなりません」とブログに書き込んでいます。その違いを生んだ間違いなく重要なモメントとなったのが、1972年日本共産党が指導する民青(民主青年同盟)に起こった反党分派査問事件が本書のテーマです。「新日和見主義」事件と言われていました。1970年代初頭に20万のメンバーを擁した民青はこの事件以後は際限なく減少し今日では10分の1の規模になっているようです。この事件の渦中にいて処分された著者は、これまでも『汚名』(毎日新聞社)、『虚構』(社会評論社)の二冊で処分した側の共産党に反論しました。ところが当事者の中心にいた川上徹氏が35年後になって『素描・1960年代』を出版し、自ら反党分派であったことを認め、それまでの言説を180度翻しました。著者はこれに対し厳しく批判して『実相』(七つ森書館)に続けて本書を著し、消された歴史に光を当てています。