「現代」を冠するにふさわしい量子物理学のテキスト
★★★★★
この本の前半では、どちらかと言うと伝統的スタイルにのっとって量子力学の定式化を説明し、後半では近年進歩の著しい量子物理の研究を解説している。理論の定式化は簡潔で要領を得ている。前半で用意した、ある意味、最低限の理論武装を、後半で駆使して、さまざまなバリエーションの光干渉や共振器量子電気力学、ボース・アインシュタイン凝縮、量子情報など、現代において実験研究も進んでいる量子物理の新しい側面を見せてくれる。とくに光の干渉効果についての議論は、物理的意義も面白いし、電磁場の量子論の使い方のお手本として見ても面白い。正直なところ、その手際のよい理論の使い方を見ていると、ああ、こうやって計算すればいいんだ、と感心することしきりであった。
「量子力学」と「量子物理学」という言葉を厳密に使い分ける必要はないと思うが(著者が使い分けを唱えているわけでもないが)、あえて使い分けるとすれば、量子力学は、量子力学そのものの数学的定式化と問題の解法に重点が置かれている学問を指し、量子物理学は、物理的現実の諸問題の理解に関心を持つ学問を指す、と定義するのがよいだろうか。その意味では、この本は量子物理学の本として位置づけるのが適当だろう。
これは、分野を超えて読まれてほしい、現代的な量子物理学の本である。