とかくMBAと言えば、「実践とかけ離れたもの」と評価されがちだが、本書では、その「知」を実際の経営に役立てる方法や、外資系企業4社で実績を上げた著者の経験を交えながら語られている。「マーケティング」「組織戦略」「管理・財務戦略」「リーダーシップとコミュニケーション」「生産管理」「交渉」「意思決定と危機管理」などの科目別に章立てされ、それぞれについて著者ならではの哲学と豊富なエピソードが披露されている。
財務的手法に偏った改革を批判し、売り上げと利益の両面を改善することの必要性を説いたり、単純な「企業は人なり」の思想に待ったをかけ、組織戦略は「人」「人に与える業務」「ポジション」の3つの組み合わせで考えるべきだと指摘するあたりは、さすが実践で鍛えた著者の面目である。前著同様、歯に衣着せずに外資の現状が披露されている点も特筆に価する。「外資の本社がエグゼクティブ・サーチ会社に出す『採用プロフィール』には当然のように『MBA保持者』と記される」「外資でいやなことといえば、給料が上がることと、仕事が楽になることだと思いなさい」といったシビアな現実や、著者が専門とする華人経営の話などは、グローバルに活躍したいと考えるビジネスパーソンにとって興味深い話に違いない。MBAの知識を網羅的に学ぶ本ではないが、実践的な知恵が満載の、注目の1冊である。(土井英司)