大変良いです
★★★★☆
思想家・研究者の翻訳に関する論文のアンソロジーです。大変良いです。Vulgateで有名な聖ヒエロニムス、文献学者としてのニーチェ、近年のtranslation studiesの元祖とも言うべきNidaなど、短いけれどもどれも刺激的で読者を唸らせる珠玉の論文が集められています。基本的ですが内容はとても大切で、translation studiesの教科書ともいえるものです。これ一冊で、古代から現代までの欧米での翻訳研究についての概観ができます。それぞれの著作家を年代ごとに分類し解説を入れてくれているのもありがたいです(時間のない人はそれだけ読んでもいいくらいです)。
翻訳の研究をしている人は必読でしょう。また実務で翻訳をしている人も、本書を読めば「何らか」の指針が与えられるでしょう(ただし本書は翻訳に関する議論を概観するべきものであって、How Toとして「即効性」を期待するものではないと思われますが。)
返す返すも残念なのは、近代の聖書翻訳に金字塔を打ちたててドイツ語の近代化に貢献した宗教改革者M. Lutherの有名な翻訳論が収録されていないことです。ヒエロニムスと同じようなことを言ってるからと、収録しなかったのかもしれませんが・・・。それでも概観としては収録してほしかったですね。