地道な研究の成果
★★★★☆
日本の雇用制度を積極的に取り入れた経済成長モデルを構築した著者の『景気循環の理論』は、あまたある日本の雇用制度論を顔色なからしめるほどの骨太な論説であった。またルーカスの貨幣景気循環論とニューケインジアン経済学をにらみつつ、貨幣経済の定式化を意欲的にその後も著者は取り組んでいた。本書は長年の蓄積が一気に花開いたものといえる。読むものは著者の真摯な研究態度に一目を置くだろう。この本の基本モデルである複数均衡モデルだが、その特性はBenhabibらの複数均衡モデルの特性の裏返し(金融政策ルールによって、本書はハイパーインフレ、後者は流動性の罠に陥る)ともいえる特徴を有している。私はこのようなモデルの特性には疑問であり、基本的にはマッカラムらによってこの種のモデルの弱点は指摘され克服されているだろう。複数均衡モデルとはいえないが、小野善康の『貨幣の動学的理論』のようなタイプのモデルの方が著者の望むようなモデルの振る舞いを再現可能かもしれない。もっとも著者のニューケインジアンやRBCモデルの展望とその弱点の展望も有益であり入門レベルの読者も十分理解可能で得るものが大きいだろう。