分かりやすく全体を俯瞰できる入門書
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各分野の統計屋と実務家に向けて書かれた極値理論(EVT)の入門書。
通常の統計学が独立かつ同一な分布(IID)に従う確率変数の平均の性質を主に調べているのに対し(例:中心極限定理)、EVTはIIDな確率変数の最大値、最小値や一定の条件を満たす順序統計量に関する性質を調べるものであり、その特徴から洪水などの予測に古くから使われてきた。
本書は、この分野の2001年頃までの主要な結果を、二百近くにのぼる参考文献ともにアイデアと例を中心として分かりやすく整理している。主要な定理の確率論的な証明はだいぶ省かれているものの、理論の流れ上重要なアイデアはおおよそ紹介されている。
予備知識としては、数理統計学(学部レベル)と測度論の初歩を仮定しているが、統計学については第2章において基本的な結果がレビューされているので、ある程度統計学に親しみのある読者であれば、問題なく読み進められると思う。
本書は、1〜2章をイントロ、3〜8章を主部、9章を補足として構成されている。1章ではいくつかの例を通じて問題意識を高め、2章で統計学の基礎をレビューしている。3〜4章で一変数のIIDのケースの基本的な理論的な結果を紹介し、5〜6章ではnon-IIDのケースの結果を述べてている。7章は、point process を使った主結果の言い換えを紹介し、8章では多変数のIIDのケースの結果を2変数の場合を例として述べている。9章では、ベイズ的な方法、地理的なモデルを想定したspatialモデルなど、いくつかのトピックスについて簡単に紹介している。