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祖父の戦争

価格: ¥2,160
カテゴリ: 単行本
ブランド: 現代書館
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絶望のやうに生きた祖父の戦争の青春 ★★★★☆
 Voiceの最近号で筆者が何故日本の戦争を書き始めたかを書いてゐるが、切実な等身大の戦争を目指した処女作が本書である。本書の文章は、近しい家族である祖父の戦争体験を一人称で自分の事の如く書き、その途中途中に祖父への聞き取り状況スケッチを配してゐる。
 尊敬する祖父は、東京帝国大学を出て絶望のやうな状態で出征する。シナ大陸のある戦場に派遣され、理不尽なままの軍隊生活を経験し、やがて馴れて行き、衝撃的な戦友の自殺に遭遇する。その三日後に幹部候補生としての転属が決まり、内地へ。重くない肺病に罹るも僥倖とも言へる結核といふ病名に変更があり、除隊。これが聞き取りの中で出現した秘密であった。祖父は人生最期の死の淵で、自分のぶち壊された自分の青春への誇りを語る。「自分の子や孫にはそんな悲惨な思ひはさせなかった。それが誇りだよ」と。
密度の濃い戦争体験 ★★★★★
歴史書の中の戦争は統計数字の羅列でしかない場合が多いけど、「戦争の現場」というものを、平和な時代しか知らない我々世代でもこういう書物を通じて追体験できる。

一兵卒から見た戦記もの、というジャンルを初めて読んだのだけど、東大出の文学青年の戦争体験だけに、言葉・表現の選び方がしっかりしている。この祖父とルポライターの孫というコンビネーション、それと何よりもこの祖父が戦地から生還できたことが密度の高いこの本を成立させている。私も含めて多くの人に「自分の祖父の戦争」というものは存在するのだろうが、これほどの体験記が誕生する可能性は殆ど無いのではなかろうか?

印象的な言葉 ★★★★★
筑紫哲也さん推薦の本格戦記ルポ。
東京帝大出のインテリ祖父と、各地の紛争地を取材してきたジャーナリストである孫が、戦争の本質と真っ向から向き合おうとする光景は、多くの示唆に富んでいる。章の随所に戦争に関する印象的な言葉が数多くあるので引用したい。

「言えることは、それまで殺し合いをする機会を持たなかったということだけでは、その人が平和的な人間だということにはならないということだ」

(中国戦線に行った祖父が戦闘の後、死体の並ぶ光景を見て)
「人間は本質的に阿呆な生き物だ。しかし、人間は成長する。進歩もする。だからこそ、勉学に励み、真摯に生きて行こう。それが、まだ若い私の拙いながらの人生観であった。
 しかし、私はこのとき、人間には一向に進歩しない領域があることを理解した。人間は救いようのない決定的な宿痾を背負わされて生かされているのだ」

「人間という生き物の程度を知った気がしたよ」

「支那兵も日本兵も血の色は同じだった」

 力強い言葉の数々。祖父が味わった戦争と、人生の最期まで秘していた真相。引き金は引いたのか? 略奪は? 戦後平和教育が徹底された社会の中で、多くの祖父たちは自らの行為を黙した。それを聞き出すことができたのは、聞き手が実の孫でプロのジャーナリストであったこと、さらに祖父が自分の死が近いことを予期し「遺言」を残す気になったからであろう。そういう意味でこういう記録は非常に貴重であろう。その真実の持つ迫力を我々はどう受け止めればいいのだろうか。

3代に渡る壮大な人間ドラマ ★★★★★
大学の先生から薦められて読んだが、冒頭から引き込まれ、後半はずっと泣きっぱなしだった。こんなに壮大な戦記ものを読んだ経験はこれまでになかったと思う。
この本では一貫して「なぜ戦争は終わらないのか」「どうして人は戦い続けるのか」という著者の強い問いかけが伝わってくる。そこで死の近い実の祖父との「真剣勝負」が繰り広げられる。しかしその真剣なぶつかり合いの中で、孫は中国で戦った祖父の「秘密」を知ってしまう‥。
重い内容だが読後感はなぜか爽快だった。それがこの本の魅力だろうか。
3つのポイント ★★★★★
 帯で筑紫哲也氏が『これは良い本です』『それでいて面白い』『戦争体験を語る類書の中で稀有な魅力を放っている』と絶賛している。
 この本が成功を収めている点は3つだろうと思う。
1戦争体験者である祖父が帝国大学卒のインテリであり、記憶も言葉もしっかりしていたこと
2筆者である孫が、ジャーナリストとして実績豊富な人物だったこと
3癌に冒された祖父が自分の人生の最後に今まで語らなかったことをすべて話す気になったこと

 文章は極めて緻密であり、まるで一編の名画のよう。私は読後、筑紫氏の言葉に強く同意した。