ベンジャミン・グレアムとデビッド・ドッドの不朽の傑作である『証券分析』の原本を見たり、ましてや手にとることなどめったにできるものではない。しかし、とりわけ念入りに仕上げられたこの完全復刻版がそれを可能にした。本書は読者にバリュー投資の神髄を説いた本物の古典を味わい、それを実地に応用するという喜びを与えてくれるだろう。
第1版から第5版まで出版され、60年以上にもわたって100万人以上の投資家に読み継がれてきたグレアム/ドッドの『証券分析』シリーズは、アメリカで最も大きな成功を収めた投資家たちの入門書であり、またウォール街でグレアムとドッドの名を不滅のものにした記念碑的な作品である。この『証券分析』シリーズは、これまでに著された投資関係出版物のなかでは最も大きな影響を投資界に及ぼしている。そのなかで今でも投資家たちのバイブルとなっている『証券分析』の第1版は、この復刻版によって1934年当時と同じようにいつでも好きなページを開くことができるようになった。
もちろん、第1版から版を重ねるごとに『証券分析』シリーズの内容も変化している。
その表現は現代風になり、新しいデータも数多く更新された。引用事例も最新のものが盛り込まれてきた。時代の流れとともに、そうした更新は必要でありまた当然でもあった。
しかし、『証券分析』第1版のこの息の長い人気の理由は何なのであろうか。今こうしてその原本の復刻版を手にとってみると、その答えは一目瞭然である。この第1版が1934年に初めてこの世に出て以来、不滅の価値を持ち続けてきた「永遠の古典」であるという単純な事実にほかならない。
あの有名な1929年のニューヨーク株式の大暴落、いわゆる「暗黒の木曜日」の余波がまだ人々の心に重くのしかかっていた1934年、初めて出版されたグレアムとドッドのこの『証券分析』からは、研ぎ澄まされた鋭い分析力、実地に即した深い思想、そして妥協を許さない決然とした論理の感触がひしひしと伝わってくる。まさに投資界では比類のない古典と言われるゆえんである。
読者はグレアムとドッドが語る一語一句にわれ知らず引き込まれるだろう。「投資界の天才」と言われ、また自らも相場を実践したベンジャミン・グレアムは、コロンビア大学の文学部で教鞭をとった文学者でもあった(さらに経済学者・哲学者でもあった)。
この『証券分析』第1版の復刻版は、単なる歴史的な古典や面白い読み物といったものにとどまらない。これはグレアムとドッドが初めてバリュー投資法を展開した原点となる著作である。それでは一体、ウォール街の気まぐれな投資家たちの心を今でもとらえているバリュー投資法とは何なのか。
グレアムとドッドはウォール街で初めて割安証券の探し方を提唱した。「重要な事実を慎重に分析してその本来の価値以下の安値に放置されている株式や債券を見つけだす」というのが、そのバリュー投資法の本質である。読者はこの『証券分析』のなかで、重要な事実を分析してそうした割安な証券を発見するというバリュー投資法の多くの具体例を目にするだろう。
しかし、グレアム/ドッドのこのバリュー投資法は果たして今でも有効なのだろうか。
ウォーレン・バフェット、マリオ・ガベリ、ジョン・ネフ、マイケル・プライス、ジョン・ボーグルといったアメリカのそうそうたるバリュー投資家が築いた富を見ればその答えは明らかであろう。
グレアムとドッドはこの『証券分析』のまえがきで次のように述べている。「本書は不確実な未来にいたる時の経緯という試練にも耐えられるだろう」。この『証券分析』がいまだに読み継がれているという事実そのものが、その言葉の真実さをはっきりと証明している。
念入りに仕上げられた本書は、原本の内容をすべて盛り込んだ1934年の『証券分析』第1版の忠実な復刻版である。