新進気鋭の心理学者の鮮烈なるデビュー作
★★★★★
この本は,いわゆる「非行少年」が更正することを援助する保護施設でのフィールドワークをもとに書かれたものであり,その語り口調は研究書とはおもえないほどなめらなでわかりやすく,そのまなざしは鋭く深い。「非行少年の問題は,その当事者に問題があり,それを捉える専門家の見方はどんな場合にも正しい」という一般には自明のものとされている前提をくつがえす議論は,豊かなフィールドデータに支えられとても説得的である。
このことは,僕らが何となく「正しい」と思い込んでいた前提がゆるがされることを意味するが,そうでありながら,それは誰もが何となくもっていた違和感を言語化し,解消してくれたというような心地よさがある。そして,その視座は,対象となる「非行少年」のみならず,「臨床心理学のあり方」や「研究者自身」を反省的に捉え直し,問題を切り離す社会から,それを抱えていける社会へ読者を誘う。
なお,著者は臨床心理士であるとともに,心理学界で最近台頭している質的心理学の新進気鋭の研究者でもある。「非行少年」といった研究対象のみならず,臨床心理学や研究実践という営み,そしてそれを取り囲む社会全体を“質的に編み変える”本書は,「質的アプローチ」の実践書としても良質なモデルを提供してくれている。少年非行や臨床心理学に関心のある方にはもちろん,質的アプローチに関心のあるすべてのひとにも是非お勧めしたい一冊である。
社会構成主義・フィールドワーク・心理臨床・援助職
★★★★★
平易でやわらかな文体が、とても読みやすい。
血の通った肉声の語りに耳を傾けているような、声が耳にすうっと入っていくような感覚で読みすすめられる。
社会構成主義の臨床実践を学びたい人には最適の入門書。
フィールドワークの実際を学ぶにも最適。
慎重で飛躍がない丁寧な論旨の展開・濃やかで具体的な記述・著者のフィールドワーカーとしてのセンスは,これからフィールドワークに携わろうとする研究者や現場の実践者を,力強く支えてくれるだろう。
心理臨床に携わる者にとっては,頭の中のかたまりが切り開かれ,揺るがされ,視点が拡がるような感覚に陥るかもしれない。
心理治療の世界がいままでみてきた「問題」のみかたそのものに対する、とても大きな問いかけが,ここにはある。
にもかかわらず、混乱・圧倒させられずに読み進めることが出来るのは、心地のよい文体の力と、地に足がついたまなざしが支える,現場の力・リアルの力だ。
本書自体が生き生きとした,ひとつのナラティブとしての命を有し,読みながら引き込まれる。引き込まれながら視点がひらかれていく。研究者以外にも多様な施設の様々な援助職の人におすすめできる本だ。