期待はずれの内容
★★☆☆☆
本書の原題は、“In the Wake of the Plague: The Black Death and the World It Made”というもので、直訳すると『疫病流行の後に 黒死病とそれがつくった世界』といったところだろうか。著者は、中世ヨーロッパが専門の歴史家である。で、本書は、その著者が、黒死病が主にイングランド(イギリスではなく、イングランドである)にどのような影響を与えたか、についてまとめたものである。
本書において黒死病は、13世紀に起こった、ヨーロッパ文化に大きな影響を与えた一つの事件として扱われており、その事件、つまり黒死病そのものがどのようにヨーロッパの諸都市を覆ったかということについては、ほとんど記述されていない。たとえば、黒死病によって亡くなったとされる数学者であり哲学者であったトマス・ブラッドワーディーンについては、その業績と思想について連綿と綴っているだけだし、そのほかにも当時の紳士階級未亡人がいかに保護された階級であったか、あるいは農地の価格や登記制度、コモンローといった解説が延々と続く。おまけは、黒死病の原因が宇宙から降ってきた「宇宙塵」にあるという仮説を大まじめに取り上げていたりといったぐあいである。
書名から想像する内容ではないし、全体に扱っている地域がヨーロッパのごく一部、主にイングランドだけというのもあって、残念ながらとても退屈な本である。