公理的熱力学
★★★★☆
少数の公理から熱力学の大系を構築していく書です。同著者の本は、外に量子力学の本が有名ですが、そちらも同様の方式で書かれています。
公理的な体系は、その体系が適用できる範囲では完全に閉じて無駄のない議論が出来ますし、新しい問題に対しても、公理の合理的な修正というアプローチが出来るため、問題の所在を明にしやすいという点で有益だと思います。
しかしながら、それは一度は一通り学習をした者にとっては美しい体系として目の前に姿を現すのですが、全くの初学者にとって見れば、公理の功利性がよく見えないという事になりかねません。
従って、初学者は一度はFermiのような公理ではなく歴史的・伝統的なアプローチで学習をし、もやもやした印象を持ちながらも、通り一遍の知識を身につけてから2冊目に読むと良いと思います。その意味で、初学者への配慮という点で星を一つ減らしました。
しかし、今は公理的なアプローチの熱力学を学習したいのならば、日本は本当に恵まれていると言えると思います。この著者か田崎氏の熱力学が用意されていますから。少なくともキャレンの熱力学は、一定の意義はあったとは思いますが、清水・田崎両氏の教科書によって過去の本と言っても良くなっていると思います。
秀逸
★★★★★
少数の要請から熱力学を構成してゆく形式。熱力学の構成法の流儀は異なるが、田崎晴明著の「熱力学 現代的な視点から」と似たタイプの本である。
1〜3章で言葉や記号の定義および熱力学の要請が厳密に述べられている。後の章で、これらの道具を用いて熱力学が構築されて行くのだが、そのことがわかっていない段階では、この部分は少々取っ付き難く、まだるっこしく感じるかもしれない。
しかし、ここを乗り越えて読み進めて行くうちに、熱力学に関する理解が非常に深まったと感じている。この本を読んで、少数の要請から熱力学の広大な世界が導かれることに改めて驚きを覚えた。
この本をじっくりと繰り返し読むことで、熱力学の完全な理解が得られると思う。