「引き算のプロセス」だったのか。
★★★★★
医師も大変だなと思った。いろいろな場面で板挟みになっているのがよくわかった。訳の分からないクレーマー患者やその家族が増え、話が通じるどころかこじれるケース。患者の希望と医療経済上の病院の方針との板挟み。しかし、それだからと言っておざなりな応対をしていただいては困る。別にサービス業のような応対を期待しているわけではない。ただ、人間相手ということを理解して、機械的ではない応対をしていただければそれでいいのだが。
去年、とある病院で、良好な意思疎通ができないまま、こちらも腹立ちと不信感を持ち、多分向こうも私に対して「二度と来るな」と思っているだろう医師とのやりとりがあった。この本でその理由がわかった。
医師が患者の症状を聞き、あらゆる可能性を考えて排除していき、「大丈夫だから検査はいらない」に至る道。「引き算のプロセス」というのだそうだ。そのまま引用する。「「引き算のプロセス」により医師が得た「安心」を患者に伝えるだけでは、患者の「安心」は生まれないのですが、医師はすでに「任務終了」と思っているので、「きちんと説明しているのに、何て理解の悪い患者だ」といらだつことになり…(略)」これだ、と思った。まさにこれだったのだ。
その時もきちんとした検査結果に基づいた医師の見立ては納得できていた。ただ、何を質問しても「必要ない」「必要ない」と文字通りスパーンと言い捨てるその態度に、「何様よ」と思ったのは事実だ。医師には医師の論理があった。しかし、患者は感情のない機械ではない。言い方ひとつでずいぶん変わるのに、と思ったものだ。若い医師だったが、年齢的にはもう変わりようがないだろう。多分これからも、たくさんの患者さんに同じことをするのだろうな…と思う。そして、私は二度と顔を合わせたくない。煮えくりかえった腸を抱えながらも、笑顔で診察室を出られたのは幸いだった。
だが、医師のおかれた現状は理解できた。この本を読んで良かった。