ですが、読み物としては面白いですし、冷戦後の世界体制を具体的に描写しているので勉強になる部分もあります。これが一番目のおいしい点。おもしろおかしく書いてあるので甘口です。
一方、著者は結局のところ盲目的なアメリカ至上主義者であり、グローバリゼーションを支持しているのは、アメリカが勝利しているからというだけです。著者は80年代のソ連の工業の自滅ぶりを見物人として描写していますが、同時期アメリカも同じ状態になっていたという事実には触れません。その時、アメリカの冷戦体制もソ連と同様な経過で部分的に壊滅しているのです。しかも悪いことにまだ残っている。グローバル化された経済の論理は、アメリカの抱える問題にも同様に適用されます。アメリカの未来も決して安泰ではなく、インドネシアやメキシコと同じ目に遭う可能性はかなり高い。そのような点に著者は触れません。
「世界中の人を一直線上に並べて序列をつけることが可能だ。もちろんアメリカ人は先頭だ」というおめでたい感覚が文章のすみずみに満ちていて忍び笑いを禁じえませんが、いや笑い事ではありません。2億5千万のアメリカ人のうち、グローバリゼーション時代を生き抜ける人が何人いるのか、脱落者はアメリカで何をしでかすのか。それが911以後のアメリカの未来を決めることになるのですから。
この本を読むと、アメリカの知識人の思考力の範囲がどの程度であり、しかも彼らと関わらずに生きていける時代ではないことについて深く考えることになります。これが2番目のおいしい点。苦いですけどね。
よく考えながら読むと、きっとためになると思います。
それにしても、globalizationの時代にあって、Lexusとオリーブの木という2つの価値観の対峙という構図は極めて的を射ている。僕の心の中でも両者がいつもせめぎ合っている。