著者は、西洋社会を中心に発展した、ユング心理学を深く学ぶうちに、自分の中にある、仏教的な要素を再認識し、西洋と東洋との自我意識の違いや、母性型か父性型かといった、社会構造の違い、といった問題に目を向けるようになり、それを心理療法の現場に活かすことを試みます。
また、この本では、夢や無意識の分析など、一見非科学的に見えるユング派の手法を、どうやって日本に受け容れられるように工夫するか、といった著者の苦労談も載っています。少しでも科学的に見えるように、最初は箱庭療法からはじめ、少しずつユング派の概念を日本に紹介していく、といった著者の慎重さには、正直舌を巻きました。
これは米国連続講演のための日本語による論考集。ユング派心理学者・臨床家である著者が、本来西欧思想であるユングの考えをいかに東洋・日本において実践しているのか。また、東洋人・日本人としていかなる変容を体験し、東洋的・日本的な思索を深めるに至っているのか。著者の個人的な体験と普遍的な思索が明晰かつ平易に語られている好著。