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ザ歌舞伎座

価格: ¥636
カテゴリ: 大型本
ブランド: 講談社
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  華やかな舞台写真がある。義太夫狂言「義経千本桜」の中でも、格別に華やかな吉野山の道行。本舞台は爛漫の桜花、花道を初音の鼓を抱いた静御前と狐忠信が引っ込んでいく―─。満場の観客が舞台に釘づけになっている、まさにこのときも、花道の下の奈落や、舞台裏の裏、揚幕の向こう側など、写真には映っていない場所で、息を潜めて役者たちの動きを見守るスタッフがいる。

  古典芸能の殿堂、歌舞伎座の内外に潜む、一般客の目には映らない人や物や空気を、篠山紀信のカメラが追いかけていく。ナビゲーターは、当代一の人気女形坂東玉三郎。30年来の付き合いという2人の、レンズと肉眼が選び出した歌舞伎座のエッセンスに、驚いたり、感心したり、ちょっと目を潤ませたり。まさに圧巻の写真集である。

  玉三郎、勘九郎らの舞台写真は、ため息が出るほど美しいが、強く印象に残るのは、ふだんは見えない部分である。3階名題下楽屋のくすんだ壁、御簾内の鳴物方の静かな目、下帯一本でとんぼ(宙返り)の稽古に励む若者たち、恐ろしく古びたスタッフ風呂…。そんなふうに読み進んでいくと、にぎやかな舞台の写真を見ても、フレームの隅の暗闇に目が行くようになる。「行間を読む」という言葉があるが、篠山の歌舞伎座写真の「行間」には、間違いなく豊かな言葉が隠れている。これで詳細な場内地図があれば、想像の翼はさらに広がるのだが。(長井好弘)