とにかくそのだらしなさは読んでいてムカムカ来るくらいである。
ここでしくじったら後がない、という場面でことごとくしくじってしまうのである。しかもその理由が毎回お酒と来たら、あきれるより他にない。
しかし、酒さえ飲まなければもっと早くに出世したかというと、そうでないところが芸の奥深いところである。
酒でしくじったすべての体験が、彼の芸に深みを与え、名人芸と言われるまでの落語を形成する大事な要素になっていたことが、絶妙のタッチで描かれている。
第三者が書いているだけあり、志ん生自身の手による、「ナメクジ艦隊」に比べ辛口なところが、彼の酒に対する甘さと調和していて、かなりの長編なのに、サラッと読ませてしまう。