事例が豊富
★☆☆☆☆
ノンフィクション作家である元刑務官の書物です。祖父、父ともに刑務官と
いう家系の方です。著作は8冊目になります。著者は現在、厳罰化がすすんで
いると述べています。実際にそれはありうることでかつては飲酒時の殺人や
大麻使用時の殺人は精神疾患として無罪判決が下ることも多かったのですが、
近年は飲酒時や大麻使用時の殺人にも厳罰がくだっています。その状況への
批判も本書にこめられています。個人的に著者が体験したエピソードが中心
になっています。多くの事例がありますのでそれらにどう重きをおいて判断
するかは読者にゆだねられると思います。
元職だけに書ける、死刑囚・懲役囚の実際。
★★★★☆
著者は死刑消極的支持者というか、”人は変われる”との信念を27年の勤務から感じ取り、近年増えた見せしめ・やっかい払い的死刑には反対の立場にある。
故に本書の内容も死刑に賛成する読者が読めば、非常に甘く写るだろう。
また死刑に犯罪抑止力がないとかのデータ的な内容も殆ど無い。
終身刑導入についても、セキュリティと高齢受刑者の医療設備費等の費用が膨らむとの指摘程度で、言うなれば、世論の8割以上が賛成する死刑制度存置最大の理由としての感情論に抗う、塀の中からの感情論を主とする反論とでも言えよう。
中心は、死刑囚・受刑者が世間の人が考えるような社会で生きられない生まれついての極悪人との偏見を覆す、様々なエピソードで、特に終盤のそれはあまりにドラマティックで、私が何冊も読んできた類書では感じなかった胸を詰まらせる場面もあった。
読者には是非読んで確かめて欲しい。
警察にとっては、被害者や遺族の感情・改悛の情がある犯人の気持ちのようなものは、自白調書を取る為に必要なだけで、それは検察・判事にとっても求刑・量刑を決める際に、世論がどう考えるのか、またそれにどう判例も加味して摺り合わせるかを計るアイテムのひとつに過ぎない。
そしてその世論は、マスコミ報道で怒りを増幅させられ、冷静さを失ってはいまいか?
被害者だけへの同情に傾きがちな人にとっては、塀の中の人もまた、自分と同じ人である事を認識させられる1冊となろう。
死刑囚を信じた記録
★★★★☆
著者は現代の犯罪者への厳罰化傾向は激しいものがあるという。しかし私は当然だと思うのである。例えば人一人殺してもまず死刑にはならない。複数殺してようやく死刑選択の余地が出てくるのだ。さらに最高裁で確定判決が出るまでの裁判の長さ。死刑判決が出ても法定期間内に執行されない現状。国内外の人権派団体に右顧左眄する政府。どれをとっても遺族及び世間一般の無力感を感じさせる事ばかりだ。こういう遺族や世間の不満が加害者の厳罰化に向かうのは仕方がないだろう。また死刑執行が滞るということは死刑囚の身内に対しても残酷な事ではないか?死刑を執行されない限り、身内に対する社会的制裁も止まないだろう。遺族や世間の処罰感情を緩和させるためには死刑を粛々と執行する事しかないと思う。
本書は死刑囚と直接向き合ってきた刑務官による死刑囚の日常や死刑直前の様子をつづったものである。筆者が長年死刑囚を見つめてきて「どんな極悪人でも、人は必ず変わる!」、「極悪人ほど社会のためになる人間になる可能性が普通人の何倍もある」という確信は見過ごせないものがある。その他記憶に残った言葉として「真犯人は自白しないものだ」、「刑務官も受刑者達も人を見る目は敏感で鋭い(この受刑者は冤罪だという事が分かるという意味)」、「死刑囚が群を抜いて凶悪な殺人者という訳じゃないですよ。私の経験からは本当に悪い奴は死刑になっていなかった」などがある。ともあれ一気に読ませる貴重な記録であると言える。