まさに21世紀現在の多様な演劇論を提示!
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編集者の毛利三彌氏の丁寧な概要に続き、現代演劇理論の先端の研究者による新しい演劇研究の論は非常に読み応えがあった。
演劇理論がパフォーマンス・スターディーズを含め人間のあらゆる領域に至っていること、また人間のあらゆる文化活動がパフォーマンスの範疇にあることなど、示唆的だった。個人的に面白く読んだのはジョゼット・フェラールの文化から越境文化へである。カナダ・ケベック州の大学教員の彼女は国際演劇学会の会長をされていた女性、インドでもヘルシンキでもお会いしたことがあるが、インドで開催された学会のパーティでケベックは独立を断念したとの発言が印象に残っている。彼女の論にはかのインドの著名なバルーチャの言葉が何度か引用されている。異文化接触のモデルになるのは何か?「すべての類の境界を横切るもの、つまり国々の間や国の中の境界、ジャンル、メディア、テクノロジー、学問などの境界をクロスする、高揚した自覚的な共同作業」ーーそして蜷川幸雄や鈴木忠志、またオン・ケンセンもその事例として紹介されている。
他ジャネール・ライネルトの「ここ数年のパフォーマンス・スタディース」も良かった。また演劇的イヴェントの拡大概念としてのダブリンの事例も非常に参考になった。文化的コンテキスト、パフォーマンス理論、越境、異文化接触、演劇的遊戯性などなど、今を生きる場と空間の芸能や演劇や社会現象総体に応用できる演劇理論だと考える。特に文化的コンテキストは演劇理論上不可欠だということを再認識させてくれた。またパフォーマンス理論の奥の深さと広さも社会を世界を見る視座として有益である。演劇や芸能を社会的・文化的コンテキストの中で深く見据えたい方にお勧めしたい!