昨年からブレイクし日本でもファンが急増中のアメリカのベテラン女流ＳＦ作家クレスの初訳３編を含む秀作全８編を収めた日本オリジナル短編集第２弾です。著者は作品の中で人類の進化が人間の本来持っている愚かな本質を目覚めさせ助長する灰色の未来を予見されていますが、それでもごく普通の女性や老人や子供を主役に据えて（時にはあえて非情に突き放す時もありますが）逞しく生きて行く姿を描く事で何処までも人間を信じる姿勢を貫いています。
『ナノテクが町にやってきた』望めば何でも叶えてくれるナノマシンの発明は人類にとって最高の幸福をもたらすはずだったが・・・・希望を残すラストに救われます。『オレンジの値段』世を儚む娘の考えを変えようと父が過去からまだ幻滅を経験していない男を連れて来るが・・・・人間の善意を再び信じさせる秀作時間旅行ＳＦです。『アードマン連結体』８０歳以上の老人達が暮らす施設にある日奇妙な病気が蔓延して・・・・残された想像不能の問題が非常に魅惑的です。『初飛行』落第寸前の宇宙軍候補生の泣き笑いの初飛行テストをコミカルに描きます。『進化』人類に確実な死をもたらす耐性細菌の進化に絶望的な戦いを挑む小さな町の平凡な主婦。『齢の泉』過去に唯一人愛した永遠に１８歳の肉体を持つ女を追う老人の数奇な恋愛物語。『マリゴールド・アウトレット』暴力的な父母から逃れ閉塞感を募らせる少年が安全な施設でホロ映像の猫に友情を通わせるのだが・・・・ホラー風味の衝撃の結末に心が引き裂かれます。『わが母は踊る』本書中で最も難解な作品ですが、著者は人間が闘争本能から戦争という行為で殺し合う運命は母なる造物主でさえも変えられないと悲観的に断じて警告を発しているのでしょう。
著者の２冊の短編集を読んで面白いだけでなく問題意識を抱かせ深く考えさせてくれる内容にぞっこん惚れ込みまして今後とも可能な限り追い続けて行こうと考えています。

ナンシー クレスは、初読書でした。
「プロバビリティ〜」はまだ手を出しておらず、中短編好きとあって、
ジャケ買い？しました。
期待に反して？良質のSFがそろっていますね。
あっと驚く仕掛けはそれほどありませんが、読ませる作品が
そろっています。
新しい仕掛けを追求するようなSFの読み方が第一、という人以外
におすすめです。