未来が秘密を持っている
★★★★★
社会が音を立てて変化していくそのときに、どのようにアイデンティティを育てていけばよいのだろうか。
ラッキーは繊細なバランス感覚で、主人公カラルのナショナリズムをヒューマニズムにまで育てていったように見える。
カラルとアン=デシャという少年たちを取り巻く大人たちは、甘くはないが優しく頼もしい。ケロウィン、タリア、アルベリッヒ、ウルリッヒ……。
カラルは自分の両親を愛し、自分の師を愛し、自分の属する世界と共に異国を受け入れる。
あらゆる国名とは無関係に人々を思いやりながら、より大きな困難に立ち向かう勇気と共感性を持つようになる。
そう。立ちはだかる困難は、〈東の帝国〉だけではない。もっともっと大きな問題が差し迫りつつある。
再びラッキーの骨太な世界観が復活したように感じて、読んでいて嬉しかった。
更に、〈ヴァルデマールの風〉では、魔法対魔の大戦争の趣を呈していた
魔法使いという才能を与えられた、いわば選ばれた人だけが戦う権利を持っていた。
が、今度は魔法以外の力も注目される。
何も特別な力を与えられなかったとしても、自分の持てる力で戦え。それぞれの力を振り絞って戦え。
それぞれの戦い方がある。決しては、人は無力ではない。