最前線の戦記
★★★★★
本書は、砲弾の雨のなかで青春を燃やし続けざるをえなかった立派な戦車乗りたちへの敬意を興すのに極めてよいものである。
とにかく激烈な戦車戦の描写に呆気に取られる。我らが戦車の粉砕した歩兵の最期。我らが戦車を狙う対戦車砲の砲手の殺気。戦車戦の恐ろしさと健気さ。島田豊作元少佐の筆が、喰うか喰われるかの極限のやりとりを我々にみっちりと伝える。なかでも「鉄獅子、月下の猛進」のくだりは、レーダーも暗視鏡も無い時代に戦車で夜襲をして成功をおさめた日本戦車隊の奇策を伝えるもの。一般的な"弱小日本戦車隊"という印象を"日本戦車隊強し"へとがらりと変えてしまうもので、とても驚かされる。
前半は著者島田豊作の生い立ち、次に紆余曲折をへて戦車将校になるまで、それから戦車隊長時代の戦記という構成。島田豊作個人の自伝的な戦記とも言える内容であるが、旧日本軍の戦車に興味がある人にとっては有無を言わさず必読の書である。