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f植物園の巣穴

価格: ¥1,470
カテゴリ: 単行本
ブランド: 朝日新聞出版
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最初は迷宮、最後はほっこり ★★★★☆
読み終わった頃には、優しい微笑みと涙の跡が残りました。

正直、本の序盤から中盤にかけては、独特の世界観を楽しみつつ難解さに頭をフル回転させて目を白黒させていました(笑)
家守、村田エフェンディ、西の魔女、ぐるり、春摘みと読みましたが、その中では一番表現が難解で読み進みづらいと思っていました。
だけどそれは本の中の主人公の気持ちとも不思議とリンクしていて、全てが分かり始めるまで「その状況」は一般常識では理解しづらい、出来ないのだと読み終わってから納得しました。
だから中盤まではよくわからんくて良いのだと思うのです。
そんな頭混乱な状況の中突入する後半は、ゆっくりと主人公が状況を受け入れ物語がはっきり、主人公の心のぽっかり部分もはっきりしてきます。
私は読んでいて、自然と涙が噴き出てきました。
現在、私のお腹に赤ちゃんがいるせいもあるのかもしれませんが、愛おしさで胸が一杯になりました。
梨木さんの作品は不思議な世界観も特徴ですが、読んだ後かならず心が温かくというか懐かしくというか、優しい気持ちにさせてくれますね。
ますます重層的に、さらなる美しさを放つ妖しの国の女あるじ梨木香歩さん ★★★☆☆
異界との境はどこにあるのだろう? 知らずにその近くにいたりすることもあるのかな。梨木さんの本を読むといつも思わされる。そして人智学者ルドルフ・シュタイナーが、動物より上位に植物を置いていることにも、とてもうなずけてしまう。植物は強く、深い。

さらには、水のパワーが印象的だった。大好きだったねえやを呑みこみ、生まれ得なかった自分の子を流し、滞っては新たな命をはぐくみ、木を茂らせ、ものを腐らせる……。

とはいえ、「家守……」以降、さらにパワーアップする梨木ワールドに、ついていけなくなってきた自分も発見……。でも、「知らんぷり知らんぷり。遺恨は水に流して」(「りかさん」)に並ぶ、とっておきのフレーズを発見できた。それは「自分が大きくなるときに、誰に遠慮がいるものか。ねたみひがみは蹴散らしてゆけ」(p187)。最後にはじつは奥方が健在で、新しいお子も授かったとわかり、安心して本を置いたことである。
“穴”と水 ★★★★☆
園丁の佐田の静かな語り口に引き込まれているうち、
どこまでが現実でどこからがこの世ならざる世界なのか。
あるいは、現在と過去の境界がぼやけて、読み手も椋の木の巣穴で
くらくらとした頭を抱えているような感じ。
佐田の奥歯に空いた穴と椋の木の巣穴とが、知らずオーバーラップし、
なにやら水の匂いと音に包まれて、園丁の記憶にもぐりこんでゆく気配。
ひらりひらりと姿を変える、異界のものたち。その交感が、妙に懐かしいような
手触りで迫ってくる。
ゆらめく記憶は、まるで水のなかのような感じ。
ラストに向かって収斂していく話とともに、「坊」を「坊」たらしめる記憶が
鮮明になってゆくさまは、さながら水底から光差す水面へとのぼってゆくような
開放感と確かさに満ちていた。
それまで、語り手でしかなかった佐田という園丁に、
真実の「こころ」が見えた場面でもある。

不思議の世界を出入りし、なんだか気持ちがゆらゆらする。
身のうちの巣穴は埋まったのだろうか。
ラストを安堵とともに迎えられてほっとする。
自然界すべてのものはつながっている ★★★★★
 淡々とした語り口(ちょっと言葉遣いが文語調でもあり)ながら、随所にユーモアが溢れていて(特に最初は毎ページ)非常に面白かった。『家守奇譚』にも少し似た語り口。ただそれ以上に、内容的にも今までの著者のテーマを入れつつ、より精巧でどんどん進化している印象を受けた。またこれまでと同じく、著者の作品に登場する町は、コンビニやスーパーといったものが存在しないような場所なのだ。

 f郷に引っ越した植物園勤務の佐田は身ごもっていた妻を亡くし、朝食付きの間借りをしている。1年前に旅先で痛くなった虫歯を応急処置してもらい、そのまま放っておいたところ、激痛に耐えかねて近所の歯医者に行く。そこであるものを見、また次第に勤務先の植物園でも様々な植物や虫の生態に触れ、専門の水生植物も調べようとしていると、あるとき、巣穴に落ちてしまう。

 自分の中の「うろ」(虫歯を含め)と植物園の「うろ」、亡くなった妻の千代と同じ名の、実家にいた「ねえや」とf郷にいる女性、すべて「過去と現在がみんないっしょくたに詰まっているのだ」。この名前にまつわるテーマは『裏庭』でも用いられていたもので、最後に明かされる事実がある。また同じような言葉遊び(なぞなぞ)も登場し、すべてのものが梨木ワールドでは繋がっている。佐田が巣穴に落ちてからはファンタジーの世界が広がり、恐らく著者がかなり影響を受けているアイルランドの妖精譚(本書でも触れられる)とも通底する。普段はファンタジーは読まないが、著者のファンタジーは気がつくとそこに自分がいる、という感じで、現実と境目が分からないうちに入り込んでいるので、いわゆる「ファンタジー」という気がせず、やはり梨木ワールド、としか言いようのない不思議な世界だ。

 ちなみにウィリアム・モリス風な美しい装画は、とある植物園の植物図だそうだ。
レトロな世界 ★★★☆☆
谷崎潤一郎「病褥の幻想」と夏目漱石「夢十夜」とアリス等々をあわせるとこのような世界になるのでしょうか。とくに谷崎の小説は、歯痛と幻想とが入り交じり、さらには主人公の歯ぐきの状態と大地の状態が連動する妄想に悩まされるなど、「f植物園の巣穴」とよく似ていますので、興味がある方は読んでごらんになってください。また、文体も明治・大正にあったものをほどよく使いこなされていて、レトロ感がアップしています。