ラズボーンのホームズ、ということを抜きにしても「優」
★★★★★
短編13編(二代目の好敵手/エイプリルフールの冒険/アマチュア乞食協会/時を超える殺人/悪魔の理髪師/最果ての地の殺人/恐怖の安楽椅子/フランシス・ベーコンの暗号/首のない修道士/カンバーウェルの毒殺魔/鉄の箱事件/消えた『ガゼルを連れた少女』/悪名高きカナリア調教師)からなるホームズ物のパスティーシュ。各話ごとの扉に絵がはいっており、Alfredo Alcala のサインがあるが、あとがきには画家の紹介は無し。描かれているホームズは、格子柄のディアストーカーとインヴァネスという「制服」。
書籍としては1989年にアメリカで出版された物だが、原案は1940年代のベイジル・ラズボーンとナイジェル・ブルース主演のアメリカ・ラジオ・ドラマ・シリーズの脚本からのノベライズということ。駆け出し時代のエピソードから、空白時代、引退後と、事件の年代も様々。各短編の題名からも推察できるように、そこはかとなく『聖典』的でありつつ、アメリカのラジオ・ドラマを通過してきたことで、話の展開はドラマチックになっている。
私の好みとしては、ちょっぴり死体が多すぎるきらいがあるが、ホームズ譚としてはよくできているし、「これをラジオでラズボーンが演じたのだ(実際、どんな物だったか、知るよしもないが)」と想像する資料的な楽しみもある。『聖典』的な地味な展開を好む向きには、短編のわりに「詰め込み過ぎ」な感じもしないではないが、読み物として面白く書かれていると思う。
ホームズ物として、とてもお薦め。