大企業でもベンチャーでもない、中小企業の現実を描いた三代目女性跡取りによる経営者修行の記録
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この本の著者であるホッピーミーナこと石渡美奈副社長、つい先日の2010年の3月に、文庫版の出版と同時に三代目社長に就任したようだ。
文庫化された機会に、タイトルが単行本出版時の『社長が変われば会社は変わる!』から、『ホッピーで HAPPY!ーヤンチャ娘が跡取り社長になるまで−』と改題したしたことで、ビジネス書のワクを出て一般書に衣替えすることとなった。
ゼロから立ち上げるベンチャーばかりが話題になるが、実際には中小企業の後継者として奮闘している若手社長が多いのが現実だ。しかも男性だけでなく、女性も少なからずいることは、『跡取り娘の経営学』(白川桃子、日経BP社、2008)で紹介されているとおりである。ホッピーミーナも、この本の第1章「産業再生跡取り娘」の冒頭に取り上げられている。
この本は、中小企業の社長の一人娘である「お嬢」の半生記であり、また著者自身の経営者修行記であり、そして危機状況にあった会社のなかに入って企業を変身させ、立て直した経営改革の本でもある。
社長イコール会社である中小企業においては、なによりも社長自身を売っていくことが重要だ。その意味においては、この本自体が社長のセルフ・ブランディングとなっている。
また、限られた経営資源のなかで、最大のパフォーマンスを出していかなければならない中小企業の現実を描いた本でもある。ヒト・モノ・カネの経営資源のうち、従業員とのコミュニケーションについては、この本のなかでは失敗体験もつつみ隠さずさらけだし、いかにして会社としての一体感ができあがったかを語っている。中小企業経営の生きた事例となっているといえよう。そして自社製品であるホッピーについては、自らが伝道師として、あますことなく語っている。
子どもの頃から文章を書くことが好きで、親の会社に入社してから自分のウェブサイトに毎日書いた日記がキッカケとなって会社の宣伝塔になっていったほどの著者のことである、この本は実に面白く、また読ませる内容の本になっている。ホッピーについては、私自身も認識をあらたにさせられた。
先にも触れたように、限られた経営資源のもと、著者はけっして身の丈知らずの全国展開はせず、東京圏を中心とした展開にとどめている。このため、ホッピーの知名度は、この地域以外では必ずしも高くないだろうが、こういう熱い情熱をもった若手の経営者が実業の世界にいるということを、ビジネス界以外の人も、もっともっと知るべきだろう。大企業やベンチャーだけが日本を支えているわけではないのだから。
ぜひ社長就任後の話も、本の形で読みたいものだ。