トマ・ピケティの新・資本論
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本書は、数年にわたってリベラシオン紙に連載していた時評をまとめたものである。この小さな本が日本語に翻訳され、日本の読者がいささかなりとも興味と関心を持っていただけるなら、たいへんうれしい。
ここに収めたテクストは、グローバル金融危機直後からその余波が尾を引く状況の中、またユーロ圏が深刻な信頼の危機に襲われ、デフレと景気後退に直面する中で、社会科学の一研究者が公の議論に参画し、政治や経済にまつわる時事問題を読み解こうとする試みを形にしたものである。
おそらく賢明なる読者は、自国の置かれた状況がヨーロッパといくらか似ていると気づかれることだろう。日本もまた巨額の公的債務を抱えているし、個人資産が急激に増えている点でもヨーロッパと共通する。だから本書は、日本の読者にもなにがしか役に立つと信じる。
本書が日本において有意義な議論を喚起するきっかけになれば、著者としてこれにまさる喜びはない。
(トマ・ピケティの日本語版への序文)
サルトルが創刊した左翼系日刊紙リベラシオンにピケティが2004年から2011年まで毎月連載して出版した「ヨーロッパは救えるか?」をベースに、2012年以降、今年6月までの最新コラムを加えて再編集した時論集。先行販売される『21世紀の資本』が700ページの専門書であるのに対し、本書は「子どもの値段」「相続税の余地」「経済における男性優位」「付加価値税を社会保障に充てるのは誤り」「オバマとルーズベルトの比較」など幅広い問題を取り上げており、ピケティ入門書として格好の内容となっている。フランス大統領オランドや経済危機にもまとまらないEU首脳などへの舌鋒鋭い批判が見どころ。その一部を紹介するとーー
●「資本主義は所詮、世襲財産で成り立っている」
●「金融規制緩和の結果、差引金融収支の世界合計はマイナス。これはあり得ない。タックスヘイブンのせいだ」
●「ゲイツと比較すると、ジョブズの財産は6分の1。ゲイツはウィンドウズの上がりで食べている不労所得者」
●「ある水準以上になると、投資リターンにより資産は加速的に増大する。この不平等を食い止めるには、国際的な累進資産税を設けるべきだ」
2013年9月24日のコラム「経済成長はヨーロッパを救えるか?」では、『21世紀の資本』の主要テーマである、資本収益率(r)>経済成長率(g)を取り上げ。「この不等式から、過去に蓄積された桁外れの規模の資産が自動的に富裕層に集中していくことが読み取れる。(中略)アメリカはもちろん、ヨーロッパでも、さらには日本でも。主に人口要因に起因する成長率の低下により、所得に比して資産の重みがかつてなく高まっている」と分析している。