11月のある日
価格: ¥3,132
フランス留学中の1998年、20歳の若さでハバナ国際ギター・コンクールの第2位に入賞したのをきっかけに注目されるようになった大萩康司のデビュー盤。演奏されているのはすべてキューバの作曲家レオ・ブローウェルのオリジナル、あるいは編曲作品である。ギター音楽の熱心なファンというわけではなく、話題になっているから、あるいはジャケットにひかれてという理由でこのCDを手にする人にとって、もしかしたらブローウェルの名前はなじみのないものかもしれない。しかし、アルバムを最初から最後まで聴き通せば、彼が現代の偉大な作曲家の1人であることをだれもが納得するだろう。作風は前衛から民族的なものまで広範。ギターという楽器の可能性を大胆に実験しながら、常にリスナーの耳を楽しませる。クラシック音楽とラテン音楽、両方のファンに受け入れられる要素を持った作曲家だ。収録曲のうち2曲はルイ・ゲーラとのギター2重奏で、「キューバの子守唄」(グレネ作曲)は「おやすみネグリータ」の訳題でも知られるポピュラー曲、「フール・オン・ザ・ヒル」はビートルズの古典。ギター4重奏の「トッカータ」は軽快でエッジのきいたブローウェルのオリジナルだ。温和でおっとりとした演奏をする大萩は、バロック音楽を編曲した「組曲 イ短調」(ル・コック作曲)、「シャコンヌの気まぐれ」(コルベッタ作曲)あたりと相性がいい。細かい装飾音をきれいに響かせることができるのは、彼の優れた特質のひとつだろう。(松本泰樹)