安彦良和はここでネロの生涯を描く。第一巻はネロが16歳で皇帝になり、皇位継承のライバルであった義弟を毒殺、友人の妻を奪い、逆に彼女に唆される形(と描かれている)で、実母アグリッピナを謀殺するまで。
作者は複雑な係累と人間関係、文化的・時代的背景についてある部分捨象し、ネロと母親アグリッピナの母子関係を中心に現代的な視点で描いている。
ネロに相対する存在として、奴隷身分の剣闘士が登場するが、それ以外は史実に忠実な展開。
安彦良和独特のタッチで描かれる光と影の画面。漫画化にあたって、服装、近衛兵の装具や食事の寝椅子、闘技場の様子など生活・習慣などの細かい点まで、ひとつひとつ考証がくわえられたであろうことが想像される。ストーリーだけを追うのではなく、こうした絵も楽しみたい。