前後が辿れない不条理な本
★★★☆☆
1941年初版岩波文庫版(99年復刊で購入)の生硬な翻訳に比べて随分と読みやすい。
しかし、子供向け文庫版という制約から端折って翻訳されているため、例えばヨセフがエジプトに売り飛ばされるところなど、初めて読んだ人には前後の筋が辿りにくいのではなかろうか。
その点が大いに不満だ。ヴァン・ルーンは、しっかりと書いているのだから(岩波文庫版ではきっちり全訳されている)。
同じ版元で、他の訳者が全訳しているとのことだが、子ども向きであれば尚更、そうしたストーリーの連関を注意して訳出すべきであって、物語の不条理としての旧約聖書の恐ろしさを感じる前に、一冊の本としての未完成(欠陥とさえ言えよう)ぶりに不条理を感じてしまう。これでは初めて読んだ小学生が面白いとは思わないのではないか?
それにしても、本書を読んでいると、未読のトーマス・マン著『ヨセフとその兄弟』を読みたくなってくる。現在、出ていないようだ。