短編集の中でも極端に短い一編が「朝めし」です。カリカリに焼いた、肉汁たっぷりのベーコンに、焼き立てのパン。湯気の向こうから入れ立てのコーヒーの匂いが漂ってきそうです。作者自身が、思い出すたびにこころの暖まる風景と書くように、このわずか数ページのスケッチは、そのすみずみまでが非常においしい文章です。夜明けの空気や大地の描写も、赤ん坊に乳をふくませながら立ち働く女性の姿も、仕事に出掛ける男達も。みな自然の一部なのです。 一日は、朝食に始まり、仕事の後の楽しみは、一杯のビール。女性を愛でるこころを持った男と、どんと頼れる男を持った女があれば、いつの世も、それなりに幸せに暮らしていけそうな気がしませんか。