著者はまず、わが国特有の英語テストの問題形式である英文和訳と総合問題を、英語教育のブレーキとなっている“二大巨悪”と指摘。英語力とは何か、テストとは何かなどの基礎概念を論じた上で、英文に関して日本語で答えさせる問題はやめ、英語あるいは記号で答えさせる、いわゆる総合問題はやめ、1つの英文素材に対して施す「変形」は多くとも1種類にする、などの“学習者に資するための5つの提言”を掲げる。
そして、小テスト、定期テスト、入学試験問題について、それぞれの目的とプライオリティを述べるとともに、具体的な問題形式を示しながら望ましいテスト問題の作成手順、作成方法を解説している。テスト作成の哲学と望ましい英語テストのスタイルを広めていくためにも、多くの英語教育関係者に本書の活用をおすすめしたい。(清水英孝)
第1章 英語テストを論ずるための基礎概念
第2章 学習者に資するための5つの提言
第3章 小テストの作成
第4章 定期テストの作成
第5章 入学試験問題の作成
まず,『英語テスト作成の達人マニュアル』という本書題名,ならびに本書目次から連想される“英語教員お助けブック”というよりはむしろ,テスト作成の原理的な機構を説明し,改革を提言している(どちらかというと啓蒙書というより)研究書。むつかしい新書という感じ。私は本書(題名)にいい意味で裏切られている。刺激的で面白かった。提言は5つあるが(47頁に一覧表がある),100点満点で出題される英文和訳込の総合問題から脱却し,基礎的な知識を問う英文英答問題へと転換せよ,という趣旨。問題用紙(および解答用紙)も,B4の二つ折り(B5の大きさ)からA5くらいの大きさにまで拡大せよという提言まであって(これは五大提言の中には含まれない),なかなか徹底している。著者のいう“一覧性”はとても大事だ。手軽に応用できる実用性もあって本書はなかなかよい。
最大の違和感を覚えた点は,やはり著者の眼目=英文和訳廃止論で,私としてはやっぱこれは捨てがたい。英語がいくら読めて理解できたとはいえ,それが日本語として表現・伝達できなければ,言語の社会性は破綻する。英語を通じて日本語の本質に理解が及ぶという副産物的効果もある。英語で国語を勉強するという効果は,私としては捨てがたい。
じつに枝葉末節でどうでもいいが,「トレードオフ」とは二律背反関係を意味する。したがって,同用語についての46頁での説明は,間違い(でなければ,日本テスト学会でしか通用しない隠語)。(945字)
この本はテスト作成時の小手先のテクニック紹介ではありません。テストによって(正確にはそのテストのための学習をさせることによって)学習者の英語力を向上させることがねらいなので、当然ながら「普段の授業でそういう練習をしている」ことが前提です。
本日から定期考査が始まったのですが、まずは考査後の自分の授業を改善しなくては、と次回の授業に意欲がわいてきました。ただ、複数の教員で教えている生徒たちへの共通の出題としては現実的に難しい部分もあるので、教える側の共通理解が不可欠に思います。