石川先生の思いが伝わってくる文集です
★★★★☆
本書はある季刊に93〜03年に連載された「児童精神医学入門」「続・児童精神医学入門」のために執筆された文章を集めたものとのことですが、内容的には決して古い印象は受けませんし、児童精神医学に限らず、広く子育てや精神医療一般などにとっても貴重な問題提起がたくさんなされていると思います。
著者によれば、
第2次世界大戦で養育者を失った多数の子供を守るという社会防衛的要請〜戦後のベビーブームを背景に、戦後の混乱が一段落すると先進諸国は「こどもの時代」に突入した。それまでの細菌研究に代わり、莫大な研究費がこども研究に投下され、科学者は競ってこの資金を漁ろうとする中で、自閉症、学習障害といった診断名が次々とアメリカで開発され、医療産業と教育産業の拡張につれて、それが急速に拡大した。
という事情がベースにあるようですが、それに加えて、
西洋医学の一部である精神医学の二分法志向によって、本来多様で多面的な人間の行為が単純に二分されてしまい、そんな中、子育ての責任を一身に背負わされるようになった日本の親たちが、遺伝、環境、正常/異常、虐待、・・・といった言葉に過敏に反応し振り回されて右往左往する結果、そのつけが子供たちに回ってしまうといった由々しき状況を指摘しながら、「情報の洪水に溺れずに、こどもに寄り添ってその気持ちを汲むようにして欲しい」、
という著者の訴えが本書全体の底流に感じ取れます。
著者のような見識をお持ちの方がが日本の医学界で少数派(?)なのは悲しい気もしますが、学会の席で「傲慢な専門家」を相手に孤軍奮闘するお話や、精神科薬剤を評価する際ための「のりりん式5W1H法」というお話も興味深く読ませて頂きました。
というわけで、本当は満点の評価を差し上げたかったのですが、評者の未熟さのためか、著者の言うほど「すべては、ふしぎなほど簡単に見えてきます。」とは行かずまだまだ努力が必要になりそうなので、星ひとつ分減点させて頂きました。