著者は、東大人文科学大学院、ウィーン大学哲学科を修了した哲学博士であり、ドイツ哲学、時間論、自我論が専攻の電気通信大学教授である。本書の土台となっているのは、著者自身が「これまでの長い人生において、むやみやたらに他人を嫌うことがあり」、妻と息子からは「ある日を境に激しく嫌われるハメに陥った」という切実な現実である。
本書では、「嫌い」を引き起こす原因として、相手が自分の期待にこたえてくれないこと、嫉妬、軽蔑、無関心、生理的な拒絶など、8つを挙げて解説している。著者自身も書きながら「私が嫌っている膨大な人々の顔が眼の前にブンブン蝿のように登場し、その迫力に押しつぶされそう」だったと「あとがき」で述べているが、読む方も、自分が今までに嫌ってきた人、嫌われてしまった体験などを次々と思い出し、その原因に改めて納得したり、せっかく忘れていたのに今さらまた思い出してしまったことへの不快感にさいなまれるかもしれない。しかし、「嫌い、嫌われる」という苦しい関係は、一面では「自分を反省させてくれ、警告を与えてくれ、まことに有益」と指摘されると、確かにそうだと溜飲が下がる。自分が誰をも嫌わず、誰からも嫌われずには生きてはいないという事実に、少なからず罪悪感を抱いている人は、一読してみてはどうだろう。(加藤亜沙)