諸階層の一揆を取り込み再編した権力
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本書は、1955年に生まれ中世武家文書編纂に従事する日本中世史研究者が、2001年に刊行した本を8年後に文庫化したものであり、応仁・文明の乱の終わりから1568年の織田信長上洛までを扱う。表題の一揆とは、この時代の諸階層が特定目的のために集団を形成することやその集団を指す広い概念である。応仁の乱は家督相続をめぐる被官一揆同士の対立から生じ、特に明応の政変以降、幕府の権威が失墜する中で、戦国時代の幕が開けた。際限のない戦乱の中、諸階層はそれぞれ一揆を形成し、自力で秩序を維持しようとする。まず民衆層では村町制が一般化し(民衆の一揆)、血統の由緒に基づく村人資格認定や村内での年貢代納、徳政の制御等が行われるようになる。気候寒冷化の中、戦争が口減らしや荒稼ぎの手段として活用される一方で、家単位での死者供養という形で民衆の宗教意識も高まり、信仰が組織化される中、宗教的一揆も広がった。キリスト教信仰もこの状況下で広まっていく。また、国人たちも一揆を形成し、合従連衡を繰り返しながら領内の秩序維持を図った。戦国大名は直接領民を把握しようとする動きと同時に、こうした下からの一揆を取り込む形で家臣団を形成し、主君の上意を仰ぐ形で結合する組織=家中へと、徐々に上から変形していった。こうした大名の領国においては、被官関係の一元化、身分の区分の明確化と身分に応じた役負担、検地、戦国家法の制定と裁判、寺社造営やインフラ整備、徳政の制御、職能集団の地域的組織化、山林保護などが行われ、近世国家につながる諸要素が現れた。こうして諸階層の一揆を取り込み再編した戦国大名の領国において、帰属の一元化が進展しつつ、統合への動きが加速してゆく。以上のように、本書は地域差にも配慮しながら、この激動の時代の社会の諸相を、社会史の観点から総合的かつコンパクトに叙述している。