当事者ジョン
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私はヌーヴェル・ヴァーグ派が好きだ。理由は、私がアメリカのカウンター・カルチャーを愛していて、ゴダールやトリュフォー、メルヴィルといった革新派の、アメリカ文化に対する「再解釈」の仕方に、自分とおなじ、アメリカに対する強い憧憬の念を感じてしまうからだと思う。
だけど、カサヴェテスの映画を観ていると、そんな「憧憬の念」は、すごくお気楽なものだと痛感してしまう。それくらい、登場人物の生きるアメリカ社会は過酷だ。世界一豊かな国なのに、愛を渇望し、老いや家族、仕事に対して深く失望してしまう哀しみ…
カサヴェテスは男として、ホークスほど洒脱ではなく、シーゲルほど理知的でもなく、クリントほど偉大ではないのかもしれないが、彼の人間に対する「真摯」な眼差しには、個人的に、深く勇気づけられている。映画ファン必見の巨匠である。
HDリマスター仕様に貴重な長編ドキュメンタリー収録で、これは買いでしょう。
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ジョン・カサヴェテス。当コンテンツに興味がおありの方は別として、その名前を知る映画ファンの中で、彼が“インディーズ系映画の父”と呼ばれ、13本もの映画を撮っていた事を知る人たちは果たしてどのくらいいるのだろうか?カサヴェテスと言えば、多くの映画ファンにとっては、眼光鋭い個性的なマスクの悪役俳優であり、かくゆう私も、「特攻大作戦」や「フューリー」、「刑事コロンボ・黒のエチュード」等でまずその存在を知った。
今回カサヴェテスの代表作5作がHDリマスター版として再リリースされる。今でこそ、俳優が映画を監督する事は珍しい事ではなくなったが、60年代〜70年代では稀少、しかも、彼が撮り続けたのは商業主義的な部分を削ぎ落としたかのような作家性が強い作品ばかり、正に孤高のフィルム・メイカーなのである。
私が、この中で観ているのは、人種差別が公然と行われていた50年代末に、マンハッタンにカメラを持ち込み、早くも黒人問題に斬り込んでいたニューヨーク派として先駆的な傑作「アメリカの影」と、演じる事、老いていく事の苦悩と怖れ慄き、孤独が内在化する舞台女優の正気と狂気の紙一重の葛藤を濃密に描いた「オープニング・ナイト」だが、どちらも、硬質なドキュメント性と奔放な即興性、剃刀の刃のような切れ味の鋭さ、極めて映画的でありながら、純文学的な深遠さも感じさせる。そして、今BOXには、「ジョン・カサヴェテスの影」と名づけられた長編ドキュメンタリーが特典として収録されている。その評伝と作家研究が、日本では、意外なほどに成されていない現状では、これは貴重だ。
難解な部分もあるが、アメリカ映画でも、こんなに知的で深みのある映画たちがある事を認識させられる。背伸びしてでも是非観ておきたい作品集だ。