本書のテーマは大きく分けて2つある。1つは、繁栄を極めた経済大国がなぜ衰退の道をたどるのかという点であり、もう1つは、その覇権がどのようにして移り変わるのかという点である。キンドルバーガーはこの大きなテーマに、理論やモデルに従って歴史の諸事実を比較考察する「比較経済史」の手法を用いて挑んでいる。緩やかな成長とスパート、成熟、減速、老化というパターンを示すS字曲線やフェルナン・ブローデルによる「中心化―脱中心化―最中心化」のモデルは、訳者に言わせると「まことに大づかみなモデル」であるが、読者が体系的に国の盛衰を理解する一助となっている。
キンドルバーガーの論の進め方は慎重であり、繁栄・衰退の法則といった形で内容を無理にまとめようとはしていないため、体系的な記述を期待する読者にはややまだるっこしい感があるかもしれない。また、上巻で取り上げられている国々に関しては、資料が不十分なこともあり、議論が徹底しきれないという面も見られる。
ただ、それでも中世以降の覇権国の興亡の歴史を検証した意義は大きい。また、個々の国の事情を深く掘り下げているため、かえって繁栄・衰退の複雑な要素を正確につかむことができるだろう。
ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、そしてアメリカ…。繁栄を極めた経済大国がなぜ衰退の道をたどるのか、アメリカの覇権は今後も続くのか。歴史を学ぶことで今後の世界経済の動向が見えてくるかもしれない。(土井英司)