紅葉の名所 文化財の宝庫 神護寺の魅力の全て
★★★★☆
京都の紅葉の名所として名高い神護寺の魅力を1冊にまとめた書です。和気清麻呂を開基とする真言宗の名刹は多くの文化財を抱える由緒ただしき寺院です。
山の中腹に建立されているのを忘れるような立派な伽藍が立ち並ぶ境内はいつも静かな雰囲気が漂っていますが、紅葉の時期は普段の佇まいを一掃するような喧騒に満ちていますので、それを覚悟すれば他では見られない紅葉観賞ができると思います。
本書は、神護寺の魅力を写真と文章で紹介したもので、学術的にも美術的にも価値の高い出版物でした。
芥川賞作家・川上弘美による「巻頭エッセイ つづいていくもの」は感性豊かな内容と見事な文章で綴られています。文化や歴史を平易な言葉で魅力的に表していました。これを読むだけでも値打があります。
他は、神護寺住職の谷内清岳師による「現代へのメッセージ 人の道」、坂井輝久「神護寺の歴史」、村井康彦「和気氏二代 時代の転換者」、蔵田敏明「神護寺文学散歩」、宮島新一「頼朝像のモデルは、やっぱり源頼朝」、白幡洋三郎「神護寺の紅葉」、久保智康「山林密教寺院、神護寺の文化財」という各分野の著名な歴史学者による魅力ある文章が掲載してありますので、読むだけで神護寺の全容が理解できるでしょう。
本尊の国宝・薬師釈迦如来立像、同じく国宝・五大虚空菩薩坐像などの仏像や伝源頼朝像、伝平重盛像、山水屏風などの国宝の絵画、国宝灌頂歴名などの書、同じく国宝の梵鐘など、洛中から遠く離れた山にあったればこそ戦乱からのがれ、これだけの文化財を今も残しているのは貴重です。実際それらを目の当たりにするのは大変ですので、本書でその素晴らしさの一端に触れてもらいたいと思います。