「慣性」と「変化」という二つの現象
★★★★★
第1巻から通読している。
このシリーズは見開きに「読者の皆様へ」という著者のメッセージが収録されており、(全文は第10巻に収録)
その中の文章が気に入って通読している。(以下、抜粋)
”<前略>歴史にはつねに「慣性」と「変化」というふたつの現象が存在します。
<中略>近年の出来事についても、この点をしっかりと念頭におき、歴史的な視点をもったうえで、
それぞれの重要性を判断する必要があります。<後略>”
本書は古代ギリシャにかなり頁を割いている。
個人的には、日本の平安末期から江戸初期の歴史小説が好きな人には、お勧めしたい。
ギリシャ文明の成立した背景と、アテナイとスパルタの戦いに代表される、同一民族による争いも良く理解出来る。
トゥキュディデスの「戦史」の引用からは、当時の戦争の実情が現代社会の抱える問題と同質であることが分かる。
当時の思想や哲学なども簡潔に説明されており、現代思想のルーツを知る上でも、一読の価値があると思う。
監修の桜井万里子氏による解説では、童話でしられるイソップが古代ギリシャの奴隷身分だったことなどが語られている。
ギリシアの歴史
★★★★☆
第二巻では主にギリシアの文明に焦点が当てられている。現代の文明への影響度から考えるとそれも当然ではあるのだが、それでもインドや中国の古代文明に関する叙述の少なさには不満が残った。
そうした不満はあるとは言え、本書はギリシアの歴史を分かりやすく整理し、構成に大きな影響を及ぼしたギリシア文明の特質を的確に分析している。しかも、本書の叙述は無味乾燥な事実の羅列に陥ることなく、人間がこれまで歩んできた道のりを生き生きと描くことに成功している。歴史初学者にもおすすめできる第一級の歴史書だと思う。
文化の源
★★★★★
『現代に影響を与えたものを中心にとりあげる』という著者に姿勢からすれば、ギリシャ文明にページ数を割くのも頷ける。寡頭政治~僭主政治~民主政治~寡頭政治という政治体制の輪廻転生は、現代文明においても変わらない。歴史は繰り返す大変良い見本を、非常に判りやすく解説している。この1冊を読み終えたとき、古代史という意味づけは無いのと等しいと感じるから不思議だ。それだけ、ギリシャ史と現代史の大きな流れは似ていると改めて気付かされる。
欧米人から見た「世界の歴史」
★★★☆☆
ウィル・デュラントが書いた『世界の文化史』と並ぶ個人的な立場から記された「世界史」として興味深い内容ではある。さらに云えば、現代になっても相も変わらず「欧米人」ないし「極西人」は、ヨーロッパ中心のモノの見方を放棄出来ないで居ることがよく分かる作品でもある。それでも本書がなお、古代インドや中國などヨーロッパ以外の地域に紙面を割いている事実は、まだしも評価に価すると言えるだろう。執筆開始時が四半世紀以上も前の作品であるせいか、やや古めかしい解釈も認められることも否めない。例えば、古代ギリシア人の男性同士の性(19世紀に造り出された「同性愛」という訳語が当てられているが)に関する記述などを読めば、そういった旧弊な認識は明白であろう。