門跡寺院の格調の高さを今に保つ曼殊院の歴史と美
★★★★☆
曼殊院は一乗寺の地にあり、修学院離宮の南にたたずむ由緒ある門跡寺院です。秋の紅葉の美しさと春のツツジなどのお庭の見事さで、通年観光客が訪れる有名寺院でもあります。本書はその曼殊院のたたずまいを写真と丁寧な解説したもので、ある意味観光ガイドの役目も果たす内容で、曼殊院観光の際にはお供にされると感慨も深いのでは、と思います。
重文の大玄関、大書院、小書院、茶室などの文化財建造物の説明が20ページあたりから続きます。40ページには有名な国宝・不動明王像(黄不動)が見開きで掲載してあります。鎌倉時代の星曼荼羅図、五大尊像、伝狩野永徳筆の竹虎図のほか、国宝の古今和歌集(伝藤原行成筆)、重文の源氏物語(花山院長親筆)などの書の美しさも観賞できるようになっていました。
笙、篳篥などの古い雅楽器や楽書「教訓鈔」などの珍しい文化財も所収されており、多方面から曼殊院の魅力にアプローチしている編集になっていました。
赤瀬川原平による「巻頭エッセイ 空中の美味」は美術と歴史に造詣深い赤瀬川ならではの記述で、他で見る曼殊院の類型的な説明文とは次元の違う視点の高さを感じました。
曼殊院門跡四十一代門主・半田 孝淳師による「現代へのメッセージ 仏教の教えと平和」、杉田博明「曼殊院の歴史」、村井康彦「寛永文化の花 専好立花図の世界」、蔵田敏明「曼殊院 文学散歩」、有賀祥隆「曼殊院の黄不動 なぜ黄色身なのか?」、白幡洋三郎「曼殊院の庭と座敷飾り」、米屋優「曼殊院の文化財」など、優れた解説が収められています。