車は目の向くほうへ進む
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本書の語り手であるエンゾはラブとエアデールテリアの雑種で老犬。セミプロのレースドライバー、デニーが飼い主だ。エンゾの回想で綴られたこの小説は、彼が心から愛し、尊敬し信頼しているデニーとその家族(エンゾも含めて)が巻き込まれた悲劇の数々と、めげることなくそれに立ち向かったひとりと一匹の物語。
土砂降りの雨の中でのレースのように、デニーの身に起きたことは一見してコントロール不能のように思える。スピンしてコースアウトするか、派手にクラッシュするか、はたまたリタイアしてしまうのか・・。エンゾは自分の意思を伝える言葉こそ持たないが、デニーの心が折れそうなときに、いつもそばにいて家族の幸せを願ってきた。デニーのモットー「車は目の向くほうへ進む」を信じて。
死をまえにしたエンゾには信じていることがある。いつかテレビのドキュメンタリー番組で見たモンゴルの犬の話だ。モンゴルでは犬が死ぬと人間に生まれ変わると言う。だから彼は死を恐れてはいない。デニーの愛車に乗ってサーキットを駆け抜けたとびきりの思い出を胸にしたエンゾが起こす小さな奇跡に涙、涙。カーレースと飼い主をこよなく愛したひたむきな犬の物語。カーレースファンにもお勧めの一冊。