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数学は最善世界の夢を見るか?――最小作用の原理から最適化理論へ

価格: ¥3,780
カテゴリ: 単行本
ブランド: みすず書房
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わたしたちは大海の真ん中で自分たちの乗った船を改造しなければならない船員のようなものだ。 ★★★★☆
「人類が誕生以来ずっと取り組んできた問題に、今すぐ決定的な答えがあたえられないからといって失望してはいけない。部分的な答えでも、それらを使って不完全ながらも作動する理論をつくり、それを改善しながらさらに完全なものを目指せばいいのである。」

モーペルテュイの定式化した最小作用の原理=「自然の中に何らかの変化を引き起こすのに必要な作用の量は可能なかぎり小さい」は、その後、自然の普遍的原理でないことが明らかにされていく。それでも、解析力学や変分法、ファインマンの経路積分へとつながった画期的なアイディアであった。

本書は、振り子の等時性を発見したガリレオの逸話から始まる。この等時性も振幅が小さいときに成り立つ近似的なものであるが、時間を計るための原理として画期的な発見であった。

科学の発展を知る者は、最初から完全な解答を求めたりしない。今使えるもので問題に対処しながら、より効果的な解決策を見出していく。それが冒頭の言葉である。これは、オットー・ノイラートの言葉として引用された喩えと同じ考え方である。

「わたしたちは大海の真ん中で自分たちの乗った船を改造しなければならない船員のようなものだ。船底から新たに造ることはできない。梁を一本外せばすぐに別の梁を入れなければならず、そのために船の他の部分が使われる。このようにして、古い梁や流木を使いながら、船の形をまったく新しくすることはできるが、そのためには少しずつ改造していくしかないのである。」

ちなみに、振幅によらず振り子の周期を一定にするには、振幅とともに振り子の長さを縮めればよく、それは振り子の糸をサイクロイド曲線に沿わせることで実現できることを本書で初めて知った。ここから、機械式の時計まではあと一歩である。
未来への希望の本 ★★★☆☆
この世はどうしてできたのか。かつては神が創造したと考えられてきた。では、神はどういうルールのもとにこの複雑な世界をつくったのか。それを追求して発達したのが数学や物理学である。神がつくったからには、この世界はあらゆる可能性の中で最善の世界ではないのかというのがそうした科学者たちの思想であり、本書の原題(可能な中で最善の世界)にもつながっている。科学史として読むととても興味深い。宗教や哲学との関わりも説明されるので読んでいてなるほどそういうことだったのかと合点がいく。

しかし、すでにわれわれはこの世界が偶然の産物であることを知っている。人間たちの意志で形成されてる社会ですら、最善かどうかはまったくわからないし、そもそも最善を定義できないことも知っている。それどころか、いまだに戦争はなくならない。それなのに、なぜこの本は書かれたのだろうか。それは著者が人間の理性を信じているから。きっと今よりよい社会をつくることができると信じているから。「希望」。それこそが著者が言いたかったことなのであろう。ヨーロッパの知を知るために、そしてこれからの社会を形成していく信念をもつために参考になる本だろう。
「虚飾のない知」への信頼 ★★★★★
 本書にはガリレオを始発点として、学べども尽きせぬ内容が詰め込まれている。それは著者が研究で辿った跡であり、物理、数学、生物、経済を巡るカオス的な道のりだ。縦糸には、物体は(ある)作用量が最小の経路を必然的に通ると、当初は提示された「最小作用の原理」が据えられ、その命運が綴られる。これは、物体の経路には(最上位の)合理的必然性があるとするもので、当初は神、後には人間の深い叡智の証明でもあった。
 現実(物理、生物、経済など)を数学化するとは、ある抽象化を施す(あるフィクションを導入する)ことであり(直線や質点の定義を考えよ)、その際ある種の現実を見事に捉えきることがある。それは古代から現代まで試みられてきたことで、人間はかつてそこから世界を(その未来をも)捉えきれると野望し、実際に大きな果実も手にしてきた。が、代償も計り知れないと著者は言う。今では、解の存在しない運動方程式の方が現実には一般的で、世界は混沌とし不安定(カオス的)で、温暖化に曝される地球の今後は誰にも分からない。最小作用の原理も、物体の経路は作用量最小ではなく単に停留化するに過ぎないと、限定的意味しか持たないことがわかった。歴史とは進歩ではなくランダムな歩みに過ぎない。
 けれど、著者は本書が「失敗の物語ではない」とする。人間の知力は限られるが、その限定を考えると驚くほどの成果をあげていないか。最小作用の原理も足が地に着き、今は物理学や数学で新たな発見を生む(強力な)道具となった。現代の世界に楽観は持てないが、この限定された合理的な知の営みに、著者は「希望」を見出すのだ。
(最後に、適切な訳注など、翻訳者の行き届いた配慮が有り難かったことを付け加えさせていただきます。)
自然現象の原理を知ろうとした歴史の考察 ★★★★☆
自然界の現象はすべて「エネルギーを最小にする」とういう単純な原理に従っている。この物理の大法則を人類は研究してきたのだ。ガリレオの振り子、サイクロイド曲線。光は直進する、言い換えればA地点からB地点まで移動するエネルギーが「最小=最短距離である」ということなのである。この原理の解明にあのフェルマーの大定理で有名な数学者フェルマーとデカルトの支持者たちとの長い論争があった、この最小作用の研究が懸垂線の研究でオイラーの「変分法」を経て米国との宇宙開発で先行した時代のソ連の盲目の数学者ポントリヤーギンの「最適化理論」へと発展する。ニュートンの驚くべき天才ぶりが234頁にある弾丸の先端が平たい図で示されて未だ解決されていませんとのこと。
シャボン玉が丸いのは三次元空間で与えられた体積を囲む表面積が最小になるよう球状をしている。
量子化学の世界では電子が「エネルギーを最小にする」所へ落ち込んで物質は安定する。統計力学の世界でもランダムな活発な運動の高温状態からエントロピーが最小で絶対零度の暗黒宇宙の死を迎える。鳥やマグロが猛烈なスピードで獲物を追いかけるときの姿はまさに「最小作用の原理」が働いている。空気力学や流体力学などあらためて数学と物理学が不即不離の関係にあることを再認識しました。
本文には数式は全くでてきませんが、内容は著者の母が哲学者でその影響を感じさせますが数学と物理学の歴史そのものです。物理や数学を学ぶ人はぜひ一読の価値ありです。
物理や数学を学ぶ人はぜひ「宇宙の向こう側」横山 順一 竹内 薫が面白いので読んでください。
参考に「一般教養としての物理学入門」和田 純夫の66頁、ネットの [いろもの物理学者]前野昌弘のページの「最小作用の原理」は必見です。