現代物理学の基礎を築いたアインシュタインの偉業を紹介する第1章「相対論小史」と、相対論と量子論の融合を目指した第2章「時間の形」をベースに、最新の宇宙論がもたらす宇宙像やタイムマシン、人類の未来など、読みごたえのあるテーマが続く。アリストテレスやプトレマイオスの時代から、経時的に宇宙論をたどる前著とは対照的に、章ごとにテーマを設定。カラーイラストをほぼ見開きごとに使い、よりわかりやすく宇宙論や著者のメッセージを伝えるように工夫されている。
本書の真骨頂は、やはり宇宙論だ。前著の英語初版が刊行されたのは1988年。以後、実は宇宙論は新たな局面にさしかかっている。これまでの理論では説明のつかない「真空のエネルギー」といった課題や、超新星の観測による宇宙の加速膨張の発見、気球による宇宙背景放射の観測結果などにより、従来の定説が揺らいでいるのだ。こうした状況下、「無境界仮説」や「虚時間」を提案する著者は、新しい宇宙像を示している。「われわれは“クルミの殻”に閉じ込められていてもなお、自分自身を限りなく広がった宇宙の王者だと考えるのです」という「クルミの殻の中の宇宙」像こそ、本書の原題であり、一番のメッセージにほかならない。有力な5つの超ひも理論を統一し得る夢の「M理論」も注目だ。
著者の本は、相変わらず難解といえば難解である。だが、ちゃめっ気たっぷりのイラストや写真が多数あり、「現代の生きる伝説」といわれる天才は意外にもユーモアたっぷりだった。宇宙論のほかに、「私たちが自滅することがないとすると、まず100年以内に太陽系内の惑星へと生存圏を広げる」、「いずれヒトの遺伝子工学は始まるだろう」といった大胆な予測もある。前著は途中で挫折した人も、本書なら楽しく読み通せるかもしれない。(齋藤聡海)